押さえておきたい! アメリカEC市場の新たな潮流

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5月25日から4日間の日程で、アメリカ大統領トランプ夫妻は元号が令和に変わって初の国賓として来日した。2017年1月の大統領就任以来、安倍首相との会談は11回目となる。
重要な日米首脳会談では、貿易摩擦と北朝鮮問題について話し合ったが、会談での共同声明などの成果文書はなかったようだ。しかし、アメリカと日本の緊密な関係は内外にアピールできたのではないだろうか。
今回は日本と深い関係にあるアメリカのEC市場について、「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」の内容から、アメリカEC市場の2018年の市場動向と潮流などをまとめた。

アメリカEC市場の売上高は約58兆円、前年比15.5%の成長

アメリカのEC市場額は右肩上がりに増加しており、「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によると、昨年、2018年は、523.19十億米ドル(約57兆円)、前年比15.5%増となっている。これは日本のEC市場の約3.2倍の市場規模である。
さらに、2021年には前年増加率は13.7%、売上高は780.57十億米ドル(約85兆円)まで達するとしている。
また、EC化率は2018年は9.8%であり、2021年には13.6%まで伸び、今後もアメリカのEC市場は拡大、成長は間違いないといったところだ。

図表

アメリカのインターネット利用者率は95.6%

アメリカにおけるインターネット人口は、2018年6月時点で3億1,232万人に達している。総人口3億2,677万人のうち95.6%がインターネットを利用している計算になる。
SNSでは、Facebookユーザー数は、2017年12月時点で2億4,000万人であり、利用者の最も多いのが、Facebookで77%,次にYoutubeで53%,さらにTwitteの39%、instagramの34%と続いている。
また、今回の資料には記載がないが、オンラインショッピングの利用者数は2.7億人を超えている。伸長率は高くないが、こちらも確実に増加してゆくと考えられている。

  • 総人口3億2,677万人
  • インターネット利用者数3億1,232万人
  • インターネット利用率95.6%

アメリカユーザーがネット購入するものは服飾関連が多い

アメリカユーザーが直近1ヶ月間にECを通じて購入した商品カテゴリー見ると、「服・靴・アクセサリー」が63%と最も高い。
次に「本・音楽・ビデオ」と「医薬品・健康品・化粧品」がともに40%と続いている。
男女別のデータによれば、アクセサリーや化粧品をはじめとする上位項目の数値は女性の方が高い傾向にあるため、ユーザーには女性が多いことが予想される。

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アメリカの新たなEC展開「クリック&コレクト」とは

下記グラフはアメリカユーザーがEC利用者で、利用のメリットには消費者が送料を負担せず商品を受け取ることができる「クリック・アンド・コレクト」を挙げる回答者が38%と最も多いことがわかった。
「クリック&コレクト(英:Click&Collect)」とは、ネット注文商品を受取り専用のピックアップポイント(例えば、宅配ボックス,ドライブ・スルーなど)にて消費者自身が受け取ることである。
「クリック・アンド・コレクト」はネット販売を手がける事業者だけでなく、深刻な人手不足が懸念される物流業界においても期待される事業展開である。
「BOPUS」と呼ばれる”Buy Online, Pick Up in Store”も「クリック&コレクト」の一種である。「BOPUS」とは、”オンラインで購入しストアで受け取る”の頭文字をとったものだ。
「クリック&コレクト」・「BOPUS」の消費者メリットは、配送料を抑えることができ、自宅配送よりも早く商品を受け取ることができるところにある。
ネット事業者にとってもユーザーがECサイトで商品を購入した後、身近な関連店舗で商品を受取るため、Eコマースに顧客を奪われていた顧客を店舗に呼び戻すことができると期待値は大きい。
現に、商品を受取るために店舗を訪れた際に、その場で別の商品を購入するユーザーは85%にも達しているという。
日本ではヨドバシカメラが「ネットで注文、店舗で受け取り」を実施している。

今、アメリカのEC事業でトレンドとなっている「クリック・アンド・コレクト」は、店舗での受け取りで配送の待ち時間を減らし、送料を節約できる点がユーザーにとって魅力であり、事業者とにとっては宅配にかかる人件費の節約とリアル店舗への集客など、今後、ネットとリアルを繋ぐ新しい買い物のチャネルとして、本格的な拡大の可能性は高い。

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アメリカECの新しいビジネスモデル「DtoC」とは

DtoC(Direct to Consumer)とは、店舗での販売を行わず、自ら企画・製造した商品を自社ECサイトから直接顧客へ販売する新しいビジネスモデルである。
DtoC事業者は仲介業者を省き店舗運営にかかる費用も削減することで、高品質な商品をより安価に販売することが可能である。
DtoCビジネスモデルは中間マージンや店舗人件費を抑えることができるため、低価格で高品質な商品を消費者に届けるとだけではなく、ブランドメッセージをダイレクトに消費者に伝えることも可能である。
アメリカで有名なDtoCブランドは、「Dollar Shave Club」である。Dollar Shave Clubは2011年に設立された米国スタートアップ企業であり、オンラインで申し込んだ顧客にカミソリの刃を毎月自宅にデリバリーするサービスを提供している。同ブランドは2017年には、大手企業Unileverに買収された。
DtoCビジネスを行うには、商品力は強く存在しているので、商品力ではなく、商品の発信力、つまり、宣伝広告によるマーケティング戦略が鍵となってくるだろう。
日本では、再春館製薬所の「ドモホルンリンクル」他、エレコム、バッファローなどDtoCビジネスの事例がある。
商品発信力を強化することができれば、地方の農産物やお酒、伝統工芸品など地場産業などは、DtoCビジネスでの成功のチャンスが期待できる。
2018年にアメリカネットユーザーに「5年後、DtoCブランドが全体の購入を占める割合」について質問したところ、「購入の20%-39%」と「購入の40%-59%」が20%を超えている。今後は、DtoCブランドから直接、商品を購入する機会が増えることを示唆している。

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アメリカでもインフエンサーマーケティングは加速中

2019年にアメリカのマーケティング事業者がインフルエンサーマーケティングに割り当てる費用は、総じて増加する見込みとなっている。
インフルエンサーマーケティングが近年加速してきた背景は、SNSの普及が影響しておりSNSは情報収集の手段として利用されている。
そのSNSの中でも、アメリカマーケティング事業者がインフルエンサーマーケティングに注力する際、最も重視しているのはInstagramの89%となっている。
そして、事業者が連携するインフルエンサーは、マイクロインフルエンサーである。マイクロインフルエンサーとは、1万~10万人のフォロワー数を抱えるインフルエンサーを意味する。
マイクロインフルエンサーはフォロワー数は多くないものの、特定ジャンルに精通した投稿を行う人が多く、フォロワーから専門家的な信頼を寄せられているからである。投稿予算もメガインフルエンサーより低く抑えられ、費用対効果も高い。
アメリカではインフルエンサーのための「American Influencer Awards」がある。いわゆる「インフルエンサー大賞」である。
この賞には、アメリカだけではなく世界各国で活躍するインフルエンサーがノミネートされ、インスタグラムやYouTubeで、最も影響力があったインフルエンサーを讃える賞である。

インフルエンサーの図表

インフルエンサーは新しいSNSの登場と既存のSNSの普及が続く限り、さらに、広がる可能性はあるだろう。
信頼するインフルエンサーの口コミによる情報は、インフルエンサーと商品・サービスがマッチングすれば、企業にとっては広告以上の大きな宣伝効果を期待できるだろう。

GDGR個人情報への対応

2018年5月、EUはEU一般データ保護規則(The General Data Protection Regulation: GDPR)を施行した。
GDGRは、EUにおける新たな個人情報保護の枠組みであり、個人データの処理と移転に関するルールである。
EUのGDPRを受けて、アメリカの消費者も「他の国々の政府も同様の法令を制定すべき」という声が高まっている。
しかし、アメリカではGDPRへの対応状況は2018年6月時点ではあまり進んでいるとは言えない。
現在のところ、アメリカではカルフォルニア州が2018年6月28日に「カリフォルニア消費者プライバシー法」を施行している。そして2019年2月には、ワシントン州でもGDPRに近い法案が提出された。
2018年9月28日、Facebookの3,000万人分のユーザー情報の流出。2019年5月には、Instagramからインフルエンサーやブランドのアカウント情報、4900万件が、オンライン上で公開されるなど、大規模な情報流出が後をたたない。
今後はアメリカ合衆国全体としての「プライバシー保護法」として整備される日も近いだろう。

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まとめ

今回はアメリカの2018年のEC市場の状況、トレンドなどを「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」の中の「米国におけるEC市場動向」の内容を参照しながらまとめた。
アメリカの現況は明日の日本の現況であるとも言え、アメリカのEC市場には新しいビジネスモデルが登場しつつ、年々市場規模は拡大している。
その中でも今回取り上げた、「クリック・アンド・コレクト」は、中国のアリババが提唱する「ニューリテール」同様、リアル店舗とECの結合であり、ECサイト単独ではなく、様々なチャネルを活用しながらEC事業を展開する新しい時代に入ったと言えるだろう。

図や記事、データに関しては「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」より作成した。

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