新型コロナの感染拡大は、緊急事態宣言からの休業要請、外出自粛など企業収益を直撃している。4月の単月をみても、83.9%の企業が2019年4月の売り上げ減少という結果となっている。
2月では67.7%の企業が減少し、3月では74.9%が減少、そして4月ではさらに83.9%の企業が収益の減少となっているのだ。
インバウンドに関しても、新型コロナの影響は大きい。日本政府観光局(JNTO)の資料によると、訪日外国人数は1月は2,689,339人で1.1%の減少。2月は1,085,100人で58.3%の減少。3月では193,700人の前年比は93.0%の減少、と過去最大のマイナス値となっている。
今回は、新型コロナがインバウンドへ与えた影響と今、事業者は何に取り組むべきなのかを整理した。
日本政府観光局がまとめた2020年3月の訪日外国人数は前年同月比93.0%減の19万3,700人だった。
2019年3月の276万人から約19万3700人となり、これで、6ヶ月連続での減少であり、2020年3月の93.0%の減少幅は過去最大の下げ幅である。
現在も世界各国では、海外への渡航制限、入国禁止、制限措置が行われている。
日本も、4月2日以降アメリカ、中国など73カ国に対して、入国拒否対象国を指定している。
また、認可を受けた入国者であっても、PCR検査と14日間は自宅やホテルなどでの指定された場所での待機に加え、公共交通機関の利用自粛も要請している。
3月の各国の訪日外国人客数で最も減少したのは、中国の98.5%減で10,400人。
また、近隣諸国の台湾では98.1%の減、韓国で97.1%の減、香港も94.2%の減少である。地域別に減少の度合いを見ると、東アジアでは97.6%減、東南アジアで86.3%減、欧米豪で82.7%減であり、どの国も80%を超えるマイナス値である。
日本は、現在、実質鎖国状態となっている。世界全体で国際的な人的流動は止まっている状態である。
中国、韓国、アメリカ、フランス、ドイツ、イギリスなど感染状況から非常事態宣言(ロックダウン)を解除しつつ、経済活動再開に向けての動きもあるが、海外渡航緩和がなされるのはまだ、当分先の見通しである。
海外渡航規制による訪日外国人客数の減少は、インバウンド関連事業に大きな影響を与えている。
訪日ラボが行った「新型コロナ意識調査」によると、「インバウンド関連の事業について新型コロナウイルスに関する影響を受けているか」と言う質問に対し、回答者の80.9%事業者が「すでに大きな影響を受けている」と回答している。
また、都市部と地方のエリア別では、都市部の方が82.7%が大きな影響を受けているとし、地方より深刻であることがわかった。
また、2月13日、りそな総合研究所は「コロナウイルスがインバウンド市場に与える影響」を試算し、公表している。
2月13日に発表されたレポートによると、全国で6,244億円、関西(2府4県)では1905億円の影響がでるだろうとしている。
この試算は2月13日時点のもので、2月から5月のインバウンドの落ち込みを前提に試算したものだ。
しかし、拡大が長期化していることから、3月11日には前提を2〜6月としたうえで、インバウンド消費額は全国で9813億円の減少と、試算修正している。
費目別では、物販が3976億円、宿泊が2596億円、飲食が1977億円、交通が905億円の減少となっている。
地域別では、関東(1都6県)ではは3380億円減少、関西(2府4県)は3042億円の減少と予測されている。
関西はインバウンド消費への依存度が高いが、前年同期と比較すると、ほぼ50%以上減少すると推計している。
さらに3月、4月は訪日外国人客数の落ち込みや、感染がさらに拡大している状況などから、インバウンド消費額は、さらに深刻な打撃を受けることが懸念される。
インバウンド事業に限らず、日本の多くの観光地や観光事業者・施設は、コロナ禍下に、日々、困難さや厳しさが増すなか、この大打撃をなんとか克服しようと必死に取り組んでいる。
先行きは不透明ではあるが、2011年の東日本大震災の時もインバウンドは激滅したが、1年後には、ほぼインバウンドは回復している。
この新型コロナが終息すれば、訪日外国人は必ず戻ってくる。回復するまで何ができるか、この落ち込みを貴重な経験ととらえ、コロナ終息後のインバウンドの未来に向けて今、何を行うべきかを考えてみたい。
新型コロナ終息後、国の補正予算を見ると、観光業、飲食業、イベント・エンターテイメント業などを支援する取組や需要喚起キャンペーン(GO TO キャンペーン)が実施される予定だ。
内容は、宿泊・日帰り旅行商品の割引や、観光地周辺の土産物店・飲食店・観光施設・交通機関等で幅広く使用できるクーポンの発行を実施するとあり、予算にして約1兆7000億円を計上している。
そして、新型コロナ終息後は明らかに観光の形は変わると想像できる。
つまり、3密(密集・密閉・密接)を避ける観光が主流になるということだ。
テーマパークや都市部など人の密集が想定される場所は回避され、自然や開放感のある場所が好まれるようになるだろう。
それは、新鮮な空気を楽しめる、山や海などの屋外観光であり、衛生面の行き届いた、安全でしかもソーシャルディスタンスが保てる場所が好まれるようになるだだろう。
ここは、終息後に備えて、インバウンドだけではなく、国内旅行者に対しても、どのような3密を避けた清潔で安全なサービスとして何が提供できるか、「3密回避」のためサービスを徹底的に見直し、施策していく必要があるだろう。
緊急事態宣言が解除されつつある中、インバウンドや団体旅行客が従来のように回復するにはコロナワクチンが開発されるなど、時間はかかると思われる。
そうした事態でも、すぐにも取り組むべきテーマとしてあるのが、近隣の地域客を動員する「域内観光の活性施策」を考えることも重要である。
域内観光とは、日帰り、または、1泊程度の短い観光である。域内観光に有効なのは、見る観光ではなく、イベント、スポーツ、食などを絡めた体験型観光である。
地域資源を活用し、多くの人が参加してみたいと感じるような需要喚起施策を行うことが重要である。
インバウンドが訪日できない今だからこそ、インバウンドの課題を見つめ直して準備しなければならない。
今こそ、1年延長されたオリンピックインバウンドに向けて戦略を練るチャンスである。
新型コロナ以前は、急激なインバウンドの増加で、インバウンド対応が煩雑だった宿泊施設も多い。
この機会に各国の訪問客別にリサーチし、集客のためには何が必要か、不足しているものは何かなど見直し、整備すべき時間にするのである。
具体的には、様々なインバウンドに対する掲示やサインの見直し、メニューの翻訳や多言語表示、WEBサイトの多言語化などに取り組むことや従業員の語学勉強まで、しっかり準備することである。
4月28日、京都ではWEBサイト上に、京都の美しい風景や歴史、文化の魅力を自宅に居ながら京都の魅力を感じ、癒しや活力を得ていただくべく「Stay Home, Feel Kyoto」の取組みを開始した。
コンテンツには、心寺退蔵院 副住職 松山大耕氏による坐禅の解説動画や京都の歴史や文化などについて学べる動画などがある。
さらに、オンライン会議などの背景に使える京都の代表的な観光地の壁紙画像も無料でダウンロードできたりする。
このように、インバウンドが閑散とした時期だからこそ、コロナ終息後の集客に向け、観光資源をPRするためのWEBサイトの構築、越境ECの整備、観光地の魅力を伝える動画コンテンツなど制作し、SNSなどで情報配信するなど施策すると良いだろう。
経営の神様と言われた、松下幸之助氏の言葉に、「不況の時こそ投資をしろ!」と言う名言がある。
松下氏は、不況またよし。不況は改善、発展への好機である。景気の悪い年は、ものを考えさせられる年。だから、心の革新が行われ、将来の発展の基礎になる。と語っている。
今、観光業界、インバウンド事業者が行うべきは、新型コロナの大打撃に怯えることではなく、今を発展のための好機ととらえ、これまでできなったことを見直し、改善し、終息後の1年、売り上げV字回復に向け、体制を整えることだろう。
最後に、新型コロナにより、今、大きな影響を受けているインバウンド事業者の皆様の未来が明るいものとなることを祈るとともに、この感染症の早期の終息を心より切望いたします。
参考: