3月11日、株式会社電通は、2019年(1月〜2月)の日本に広告費を公表した。
今回は、新たに「物販系ECプラットフォーム広告費」と「イベント」領域を追加した内容だが、2019年の総広告費は通年で6兆9,381億円となり、前年比106.2%のプラス成長であった。
日本の広告費は8年連続のプラス成長であり、その概要を見ると、マスコミ4媒体広告費が減少(前年比96.6%)した分、インターネット広告費(前年比119.7%)と、プロモーションメディア広告費の増加(前年比107.5%)し、プラス成長となったようだ。
また、特質すべき点は、2019年のインターネット広告費が初めて2兆円の大台に乗ったことと、テレビ広告費を上回ったところだろう。
今回は広告費の中のインターネット広告に焦点をあて、2019年の日本の広告費の概況、さらに今後のネット広告の課題など見ていこう。
2019年の日本の総広告費は、通年で6兆9,381億円となり、前年比106.2%の8連連続のプラス成長であった。
昨年は消費税の引き上げ、相次ぐ自然災害などマイナス要因が多かった中で、インターネット広告の成長、イベント広告などの拡大が総広告費をプラス方向に押し上げる形となった。
中でもインターネット広告費2兆1,048億円(前年比119.7%)が、テレビメディア広告費1兆8,612億円(前年比99.4%)を初めて超えたことだろう。これは広告業界の大きな転換点と言えるだろう。
広告費は、大きく分けて3つに分類される。1つは、マスコミ四媒体広告費でテレビ、新聞、雑誌、ラジオ広告である。
2019年は2兆6,094億円で前年比96.6%だった。マスコミ四媒体広告費は全体の37.6%を占め、中でもテレビ広告は全体の26.8%を占めている。テレビ広告は広告媒体では大きな位置を占めている。
2つ目は、インターネット広告費である。2019年は2兆1,048億円(前年比119.7%)であった。インターネット広告の中には「マスコミ四媒体由来のデジタル広告費」715億円(前年比122.9%)や今回新たな項目「物販系ECプラットフォーム広告費」1,064億円が含まれている。
今回の新設項目を除外すると、インターネット広告は1兆9,984億円の前年比113.6%の拡大成長ということになる。
3つ目は、プロモーションメディア広告費で、屋外看板広告、電車など交通関連広告、チラシ等折込、DM広告、フリーペーパー、POP、イベント・展示・映像広告である。
プロモーションメディア広告費は2兆2,239億円、前年比107.5%は増加傾向である。プロモーション広告費は全体の32.1%を占めている。
前年より減少傾向にあるのが、折込広告の91%、フリーペーパーの92.3%、POP広告に98.5%など、逆に増加しているのが、イベント・展示・映像広告の158.4%、交通広告の101.1%である。
今後、プロモーション広告費で注目されるのは、交通広告のデジタルサイネージ広告やタクシービジョン広告である。
インターネット広告費とは、インターネットサイト(PC、タブレット、スマートフォンなど)やアプリ(物販系ECプラットフォームも含む)上の広告掲載費(媒体費)及びその制作費を指している。
インターネット広告には、商品、サービスに関するバナー広告、動画広告、検索広告、SNS広告、キャンペーン広告など様々な種類があり、インターネット広告の伸長には、近年のスマートフォンの普及が大きな要因となっている。
スマートフォン利用者と利用時間の拡大が、インターネット広告の拡大に大きく影響している。
広告主にとっては、インターネットの閲覧頻度、ネットユーザー数が多いことが大きな利点であり、さらに、投資した広告費に対する費用回収率も従来のメディア広告より、明確に試算でき、高効率である点などが拡大の要因である。
2019年のインターネット広告費には、「インターネット広告媒体費」と「広告制作費」、さらに、今回より、新たに「物販系ECプラットフォーム広告費」の3種により構成されている。
通の公表した内容によると、インターネット広告媒体費は1兆6,630億円(前年比114.8%)であり、インターネット広告費のうち運用型広告費は、1兆3,267億円(同115.2%)であり、ほとんどが運用型広告で占められている。
運用型広告とは、Google、Yahoo!の検索連動型広告、動画広告、SNS内の広告である。
また、インターネット広告媒体費の中には、マスコミ四媒体由来のデジタル広告費と言われる、マスコミ四媒体事業社などが主体となって提供するインターネットメディア・サービスにおける広告費、715億円も含まれている。
内訳は、新聞デジタルと呼ばれる、新聞社が提供する広告。出版社が主体となって提供する雑誌デジタル。ラジオ事業社が主体となって提供するラジオデジタル。テレビ放送事業社が主体となって提供するテレビメディアデジタル広告がある。
最も大きく伸びているのは、テレビデジタル広告の中のテレビメディア関連動画広告(前年比148.5%)であった。
これは、民放公式テレビポータルTVer(ティーバー)などの、インターネット動画配信における広告費である。
動画広告は以前のブログ『急成長する動画広告、そのメリット、種類、価格は?』でも記したように、2019年は大きく成長した分野である。今後もこの傾向は続くだろう。
2019年にはインターネット広告媒体費以外に、「物販系ECプラットフォーム広告費」 1,064億円が新しく追加項目となった。
「物販系ECプラットフォーム広告費」とは、物販系ECプラットフォーム上に店舗を持つ事業者によって、当該プラットフォーム上に投下された広告費を示している。
実際にはAmazon広告が良い例と言えるだろう。
このプラットフォーム内の広告は、これまで、インターネット広告費に含まれていた内容だったが新たに独立させ、試算したものであり、今回の推定では、1,064億円という市場規模だが、今後はインターネット広告でも中心的な位置に拡大する可能性があるとしている。
最後にインターネット広告制作費があり、電通の発表によれば、3,354億円(前年比107.9%)となっている。
インターネット広告制作費とは、その名の通り掲載する広告制作費のことで、デザイン制作や撮影などにかかった費用、制作会社や広告代理店へ支払う費用などを指す。
制作費としては、自社サイトと連携させてSNS広告活用や、企画キャンペーン訴求の増加やPDCAなどの関連作業の増加などがその要因である。
2019年、インターネット広告費はテレビ広告費を抜き、低迷感ある4大マスメディア広告の主権を奪うかのように拡大しつつある。インターネット広告はネット同様に進化しているが、その弊害も多い。
ここではインターネット広告の課題について見ていこう。
まず一つ目の課題は、インターネット広告には悪質なものが存在するということだ。
つまり、悪質な広告主、嘘偽りを語る広告の存在である。
ユーザーを煽りすぎたもの、効果のない商品を効果のある商品として宣伝する広告主である。インターネット広告は安価で広告の素人でも出稿できる。広告関連サービスにおいてガイドラインが遵守されていないことが原因である。
そして、あまりに多くの悪質な広告が横行するっようになると、広告配信するメディア側の広告出稿基準は年々厳しいものになり、広告表現に大きなデザイン制約が設けられることになるだろう。
「アドフラウド」とは企業の広告費をかすめ取る広告詐欺を意味している。
これは、インターネット広告の信頼性を低下させ、広告業界全体を衰退させる可能性のある重大な問題である。
手法としてはボットなどの自動プログラムを悪用し、インプレッションを増やしたり、広告クリック費を水増ししたりするもので、人ではないロボット相手に広告が表示されることになるため、広告主にとっての広告費は、無駄打ちになってしまう。
世界広告主連盟WFA(World Federation of Advertisers)の最新報告によると、「アドフラウド」は、2025年までにおよそ500億ドル(約5兆4,188億円)に増加すると予測されている。アメリカでは損失額が年間8000億円規模(2016年)にも達している。
この「アドフラウド」により、広告主である企業は広告費を無駄に取られる。
対策としては、メディア側の管理画面のみならず、サードパーティの解析システムを使い、CV・CPA・CVR・CPO・ROI・ROASの検証を逐次行う必要がある。
「アドブロック」とはブラウザやアプリに広告を表示させないようにすることである。
コンテンツを閲覧ている最中にポップアップ広告が出たり、コンテンツを覆うように広告だらけのページだったり、インターネット広告に嫌悪感を抱くユーザーが多くなっている。
このようなユーザーに対し、広告を表示させないための拡張機能が「アドブロック」サービスである。2019年7月にはGoogle Chromeもアドブロック機能を追加した。
アメリカでは、「アドブロック」機能をインストールしているユーザーは33%にも達しており、日本にもこの「アドブロック」の波はくるだろう。
アドブロックユーザーが多くなると、広告がターゲットにリーチしにくくなる。
アンチネット広告ユーザーは今後増長すると思われ、広告表示に対するルール、ガイドラインの整備が急がれるところだ。
アメリカGoogleは、2022年以内に同社ブラウザ内で「ターゲティング広告」のためのクッキー利用を段階的に規制すると発表した。これは、個人情報の保護強化を求めるユーザーに対応したものである。
対象とするのは、サードパーティーによるクッキーで、広告ソフトウエア会社などが自ら運営していないサイトでクッキーを使ってユーザーを追跡することを制限するものだ。
「ターゲティング広告」は、クッキーを利用した閲覧履歴から、個人の好みを予測して閲覧ユーザーのサイト広告欄にユーザー分析に基づき最適な広告を表示するというものだ。
今や、この「ターゲティング広告」は広告の主流となっており、Googleがこのクッキーの利用を規制するようになれば、ターゲティング広告の配信ができなくなり、その影響は大きい。
「ターゲティング広告」は個人の生活を見られいるようで気持ち悪いなど、反発が多いのも事実である。
今後はこの「ターゲティング広告」に変わる新たな広告モデルの構築が必須である。
世界では日本より早く、2018年にテレビ広告費を抜きインターネット広告は主流になった。
また、インターネット広告は、Google、FaceBook、Amazonがメディアを寡占しており、今主流となっているのは、前述したターゲットの好みや属性を細かく捉え、いかに精緻にアプローチするかといった費用対効果の高い「行動ターゲティング型広告」である。
しかし、インターネット広告はその市場が大きくなればなるほど、課題も多くなっているのも事実である。
今後、インターネット広告の安全性、信頼性の向上させためにも、広告業界では適切なガイドラインの策定と啓蒙活動を行わなければならない。
タグ: Google AdWords, インターネット広告, 広告
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