今年4月、ヤマトの引き受け荷物の抑制や時間帯指定の見直し、配送業の人手不足や労働環境の問題など、宅配業全体が脚光を浴びた。
ネット通販の伸長と同様に個別配送量は増大し、それに伴い宅配人員が不足し、労働環境が深刻な状況になっているのだ。ヤマト運輸のAmazonからの即日配送撤退には、このような背景が浮き彫りなる出来事でもあった。
このような状況を打開するために、近い将来実現しそうなのがドローンを使った宅配である。
今回は、2015年に安倍総理が「早ければ3年以内にドローンを使った荷物配送を可能とすることを目指す」と宣言したドローンを使った宅配便の現況について見て行こう。
ドローンによる宅配便とはドローンに荷物を持たせ、個人宅まで配送するサービスである。アメリカではAmazonやUPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)で、その配送実験が進んでいる。
アメリカの場合のドローン開発は、我々のドローン宅配イメージとは少し違う。 ドローン宅配のイメージは通常、倉庫から荷物を持ったドローンが飛び立ち、お客様の玄関前に荷物を落とし、倉庫に帰るというものだが、アメリカの場合は、まず、配達する地域まで、トラックが荷物を運び、そこから、宅配ドライバーがドローンに荷物を積み、端末を操作し、お客様へ荷物を届けるといものだ。
日本に比べ、アメリカの広大なエリアでのドローン活用は、理にかなった活用法と言えるだろう。
また、実証実験では、Amazonは北米初となるドローン配達「Prime Air」に成功している。 これは、アメリカの公共エリアで公開実験として行われたもので、ドローンが運んだのは、日焼け止めが詰められた箱だった。
注文は事前に手配されていたものの、デリバリーは無人で実行されたようだ。このようなドローンによる配達実験はAmazonのほかにGoogle、Walmart、Dominoなど大手企業も積極的な取り組みを見せている。
日本にもドローンの波はやってきている。ドローン関連で取り組みを行っている企業はALSOK、NEC、ソニー、デンソー、NTTドコモ、セコムなど多くある。そして、特にEC関連の宅配ドローンとして、開発を急いでいるのが、楽天とヤマトHDの実証実験と言える。
2015年12月、内閣府は国家戦略特区に千葉市を指定し、ドローンを用いた宅配をできるようにしている。そのため、ヤマトHDでは千葉市が計画するドローン宅配事業実験に参画することを表明し、2020年には事業化を目指している。
楽天は2016年5月から、ドローンを活用した一般消費者向けの配送サービス「そら楽(そららく)」を開始している。 これは、千葉市のゴルフ場コース内でプレイヤーがプレイ中に飲み物や軽食、ゴルフ用品などを端末で注文するとドローンが所定のエリアに商品を届けるサービスである。
楽天はEC事業にドローンを活用することを視野に入れており、このような実証実験による様々な経験、オペレーションノウハウを蓄積することで、ドローンの可能性を模索しているようだ。
ドローン宅配は普段は配送が難しい山間部や離島までサービスを展開することが可能となる。今後、さらにドローン技術の向上、安全性の確保など実現されれば、人々の暮らしをもっと豊かなものにすることは間違い無いだろう。
中国のECサイト運営会社、京東(JD.com)は8月31日中国国内初となるドローン飛行許可を取得した。
京東で発表されたドローンはVT1と言い、ヘリコプターと小型飛行機を一体にした形状となっている。VT1は総重量は1kg、荷物個数は200件まで一度に運ぶことができるものだ。
中国でドローン配送が現実化すると中国内陸部、農村部など、配送が不便なエリアへのインフラが整うこととなり、大規模な運送ネットワークが構築されることとなる。
2015年、京東はドローンプロジェクトを正式に発表し、2016年年5月には、人間の介在を一切排除したドローン自動運転プロジェクトを立ち上げ、ドローンによる運送網を確立し、新たな中国マーケットの拡大を現実のものとしつつある。
実用化に向かって徐々に動き出しているドローン宅配であるが、クリアしなければならない問題も多い。以下にその代表的なものを記した。
ドローンは天候がよく障害物の無いところでは飛行が可能だが、悪天候、強風などでは飛行できない。また、人や建物へのドローン墜落、商品落下の際の対策、障害物を自動的に避けるプログラムなど、技術的にクリアしなければならない。
ドローンは航空法により夜間の飛行と目視外飛行は原則禁止である。 ドローン宅配を実現する場合は目視外飛行は必須ある。法律では目視できる位置までしかドローンを飛ばすことができないとしているので、この規制緩和がされなければ、ドローン宅配は難しいと言える。
輸送中に商品が盗まれたり、ドローン自体が盗難に合う可能性も考えられる。商品の盗難に対しては商品のセキュリテイ機能を高める、ドローン盗難については飛行管理システムによるデータ管理によって、悪用や盗難に対応する必要がある。
ドローンは空撮用カメラを搭載しているのが一般的で、ドローン宅配はマンションの各ベランダにまで輸送することが想定されている。そのため、商品の受取者以外でも近隣部屋の撮影も技術上は可能である。
そうなると、ドローン宅配に見せかけた盗撮などドローンを使った悪質な犯罪に利用される危険性がある。 不審な動きを見せるドローンはすぐに警察に通報するなど、対処も必要だ。
ドローンは配送や撮影分野の未来に変革をもたらす大きな可能性をを秘めたテクノロジーである。国内の市場規模も2020年には186億円、2022年には406億円へと急増すると試算している。
ドローン宅配はEC事業の配送に活用されれば、配送時間の短縮や輸送コストの低下などそのメリットは大きいだろう。
ドローン実用化に向けては法整備、規制緩和、安全対策など諸問題がクリアされていけば、「空の産業革命」と言われるドローンが荷物を運ぶ未来はそう遠くはないだろう。