アメリカ向け越境ECプラットフォームとして思い浮かぶのは、Amazon.comやeBayが代表的だが、今、注目されている越境ECプラットフォーム「Wish」をご存知だろうか?
昨年、2020年12月、「Wish」を運営するContextLogic社は米国NASDAQに上場し、時価総額US$14bil(約1.4兆円)で約US$1.1bil(約1,100億円)を調達した。
「Wish」は今、アメリカとヨーロッパでは最大のモバイル系ECプラットフォームとして成長している。
今回は、この「Wish」の強みや特徴、さらに越境セラーとしての参入のメリット、登録方法など紹介する。
「Wish」は月間アクティブユーザー数、1億人以上、店舗数50万店舗以上、毎日200万点以上の商品を販売している世界最大のモバイルショッピングアプリである。
Wishは2010年にGoogleとYahooの元開発者Peter SzulczewskiとDanny Zhangによって設立され、当初は、ユーザーが欲しい商品をリストアップするアプリとして始まった。
その後、ユーザーとセラーを直接つなぐサービスへと発展していき、2017年には1,000億円以上の収益を上げるショッピングアプリに成長した。
Wishは、アメリカ消費者にもっとも多くダウンロードされており、洋服やアクセサリー、電化製品など、様々な商品が出品され、メルカリのようにスマートフォンやタブレッアプリから買い物を楽しむことができる。
2018年のアプリダウンロード数では、世界で最もダウンロードされたショッピングアプリでもある。
2020年の1~9月期の月間利用者数は平均で1億800万人と前年同期の1.3倍に成長、売上高も前年比32%増の17億4700万ドル(約1,910億円)となった。(売上は拡大しているが営業利益での損失が大きい)
商品にはブランド商品はほとんどなく、10,000円未満の低価格帯、重量も2kg未満のものが多い。
商品層を見るとミレニアル世代をターゲットとしており、「どこよりも安い商品をユーザーに届ける」を基本軸に、Amazonやアリババにも負けない、世界100ヵ国以上の消費者に販売するグローバルECプラットフォームである。
Wishの最大の特徴は、アプリ内の商品を見ても分かるように200円から10,000円以内という低価格商品に特化しているところである。
しかも、配送も翌日配送などというサービスはない。商品到着までに、3週間以上かかることもあるという。
それでも、このWishが収益とユーザー数を伸ばしているのは、Amazonが幅広い品ぞろえや配送スピードを強みとしているのに対し、Wishでは、配送に時間がかかっても、低価格な商品を購入したいという中間所得者層を取り込んでいるからである。
そして、その商品の9割を出品しているのは中国のメーカーで、商品は中国から直接配送する、中国のメーカーと世界のユーザーを繋ぐ越境ECプラットフォームなのである。
Wishがもう一つ特徴的なのは、モバイル特化したアプリである点である。それは、ショッピングアプリの使いやすさと、レコメンデーションにある。
WishはECサイトによくある、「ホーム画面→家電→冷蔵庫」のような商品を探す階層構造を採用していない。
「Wish」のメインアプリは、ファッションや化粧品などを取り扱うものだが、子ども向け商品を扱う「Mama」、インテリア用品を扱う「Home」などアプリを使い分けている。
そして、トップ画面は、人工知能(AI)を使い、50万を超える出店者の中からユーザーの国、年齢、閲覧履歴等の個人ニーズにあわせた、商品提案するブラウジングテクノロジーも大きな強みとなっている。
また、WishはグローバルECプラットフォームとして、100ヵ国以上の国のユーザーに利用されているサービスであるところも魅力だ。
そして、後述するが、越境ECのプラットフォームとして出品しやすく販売システムも分かりやすい。
越境ECとしての多言語対応や通関・税務用の機能も充実している。メーカーなど、あまりEC出品に慣れていない販売者にとっても、簡単に利用できるようになっている。
Wishの取引の基本となっているのは、店舗を中国の低価格販売メーカーとし、ユーザーをアメリカなど中間所得者(世帯年収が7.5万ドル(約830万円))以下として、越境して店舗と消費者をつないでいるところである。
このWishがターゲットとしている、中間所得以下の層は米国の42%、欧州では85%、中国やインドを除いても世界全体では10億人以上も存在する。
その中間所得者層が何より重視するのが、「価格」であり、「激安」であれば配送時間を犠牲にしても良いと考えているため、Wishの戦略が成立している。
ブランド品でなくても類似商品であっても、とにかく安く買いたいといったニーズがあり、今まで、このような激安ECマーケットがなかったことが、急成長した要因だろう。
さらに、中、低所得者はPCよりスマートフォン所有率が高く、モバイルに特化したアプリとしたところも目のつけ処がいい。
つまり、商品購入がしやすいUIになっている。例えば、ユーザーが商品を探しているときに、出てくるおすすめ商品などは、人工知能(AI)によるおすすめ商品なので、衝動買いしやすい。
また、スマートフォンのSNS(Facebook)によるユーザー同士の共同購入、SNSによる推薦・口コミの広がりなど、モバイルに特化した戦略を展開している。
※余談だが、アメリカでは今や年収1,400万円でも低所得者に分類される時代なのだ。
アメリカの所得レベルは日本の所得レベルと大きな差があることを認識しなければならない。日本は、30年前から物価も所得も家賃も上がらない幸せな国なのである。
Wishは日本の楽天やヤフーショッピングの出店型のECプラットフォームである。
Wishは低価格商品を供給できるメーカーなら、その参入メリットは大きい。
Wish自体は多額の広告費を使って積極的にFacebookなどで商品PRを行っており、その他、参入メリットとして以下の5つが挙げられる。
Wishは商品が売れたときに販売手数料のみ徴収され、手数料は各販売(商品代金+発送費)の15%となっている。
そして、その手数料はコミッション割引といって、最初の3ヶ月間は5%、それ以降は15%となっている。
売れ筋商品のトップ3のカテゴリーは、ファッション(洋服、靴)、ファッションアクセサリー、ホームデコレーションである。
登録は簡単で、誰でも申し込むことができる。ここでは、事業アカウント登録までのステップを紹介する
登録後、Wishが3営業日以内に審査される。
Wishは日本の100円ショップの越境ECプラットフォームと言える。
そして、激安ECなだけではなく、ユーザーデータを分析し、パーソナライズされた商品・価格を提示することによって、ユーザーのLTVを最大化している越境ECなのである。
今後、激安ゆえの低品質商品ばかりではなく、一定以上の商品品質を確保できれば、企業の信頼も確立でき、今はまだ、ありえないかもしれないが、「Amazon」で買う前に「Wish」でチェックするというシナリオも見え、最終的には「ECの巨人 Amazon」をひっくり返すかもしれない。
参考: