今週金曜日、11月29日より、アメリカ、ヨーロッパでは「ブラックフライデー」が開催され、続く12月2日(月)からは「サイバーマンデー」と、いよいよ、欧米では2019年の年末商戦へと突入する。
今年の年末商戦は「長期化」と「EC化」が特徴とされ、セールは長期化し、実店舗に足を運ぶ人は減少し、ECサイトで買い物する人が増えるだろうと予測されている。
特に、Amazonはじめ、Eコマース事業者は今年最後の「サイバーマンデー」に注力しているようだ。
アメリカは中国に次ぐ、世界第2位のEC大国である。2018年のアメリカECアメリカEC市場売上額は5,045憶米ドル(約55兆円)と日本(約18兆円)の約3倍である。
そして、今年2019年のアメリカECのトレンドは「DtoC(D2C)」の台頭と言えるだろう。
アメリカの「ECommerce Times」でも、「「DtoC」ビジネスは増加しており、今後は、「DtoC」つまり、消費者との直接取引は強化されるだろう、としている。
今回はこのアメリカEC市場と「DtoC」事例などについて見ていこう。
アメリカのEC市場総売上額は右肩上がりに上昇している。2018年のアメリカEC市場売上額は5,045憶米ドル(約55兆円)で、今年、2019年は5,607憶米ドル(約62兆円)になるとされている。
アメリカのEコマースが小売に全体に占める割合は、2019年で11.1%で日本のEC化率(6.22%)の1.8倍と高い。
さらに、EC化率で高い数値なのは、電化製品は32%、おもちゃ・スポーツ用品は28%である。
また、アメリカのECサイト利用者は2017年で2.4億人だったが、2019年には2.7憶人(アメリカの人口の約84%)を超えるだろうと予想されている。
ECサイトでの売れ筋商品は単価の高いコンピューター・家電やアパレル・アクセサリー関連商品となっている。
2019年予測では、コンピューター・家電は1,302億9,000万ドルに達し、アメリカのEC市場シェアの21.7%を占め、アパレル・アクセサリーは1,227億6,000万ドルで20.4%を占めるとされている。
このアメリカEC市場で高い利用率、シェア率を占めているのが、Amazon.comである。
AmazonはアメリカEC市場の49.1%と約5割を占めている。そしてこのシェア率は年々増加している。
次に、ebayの6.6%、そして、3位にAppleとなっており、メーカーでは唯一、3.9%となっている。
アメリカではAmazon.comがインターネットの黎明期から、EC事業を展開しており、今や他の追随を許さない巨大なプラットフォームとなっている。
日本の場合のAmazonシェアは、対抗する楽天、ヨドバシなどもシェア率は高く、アメリカほどAmazonシェア率は突出していない。
アメリカではAmazonで売れるかどうかが、小売業の生命線ともなっている。
そしてAmazonが台頭すればするほど、多くの量販店は廃業に追い込まれている。
この現実を背景として、今、アメリカで広がりつつあるのが、「DtoC」と呼ばれる、メーカーが自社製品を自社ECサイトを構築し、直接販売する方法である。
では、「DtoC」とはどのようなものなのか、次に詳しくその内容を見ていこう。
「DtoC」は、Direct-to-Consumerを略したもので、D2Cという表記をすることもある。
「DtoC」とは、卸売業者や小売店舗を仲介させず、自社が企画・製造した商品を直接消費者へ販売するビジネスモデルである。メーカーから消費者へ直販する「DtoC」は、中間マージンをなくし、無駄なコストをカットしてスピーディに商品を消費者に販売できることがメリットとなっている。
この「DtoC」モデルがアメリカでは加速しており、その理由の一つとして、Amazonのシェアが急速に高まることで、販売主要チャネルであった、百貨店や専門店において、新規顧客との接点が少なくなりつつあるという、危機感がある。
従来あった店頭販売による、自社商品の消費者マーケットの理解やニーズの把握や、接客を通しての、商品価値や利用方法などを伝えられないなど問題が生じた。
さらに、ブランド価値を高め、ファンを増やすなどマーケティング戦略にも支障をきたしているなど、本来の商品の売り先である量販的の衰退は様々な課題を生み出すこととなり、次第に、エンドユーザーへ直接商品を販売する「DtoC」を取り入れるメーカーが増加するようになった。
「DtoC」の特徴的なところは、ブランド保有企業やメーカーが、ECチャネルを通して直接消費者と接点を持ちつつ、ECサイト運用し、新規顧客を管理しながら、売上を維持していかなければならないところだろう。
メーカーが「DtoC」に舵を切ることは、大きな事業転換である。
従来は、メーカーは主要取引先に一括で商品を卸しながら販売委託する方式に加え、自社ECサイトやSNSの運用をも行うことになるので、単純に業務が増えることになる。
つまり、これまではメーカーとして商品企画、商品の製造・管理、卸先、主要小売業へ情報提供・販促支援などの業務に加え、ECサイト運営、集客活動、EC受注・顧客対応、さらに配送までトータルに管理しなければならない。
メーカーから、消費者へ直接販売を可能にしたのは、Instagram・Twitter・Facebook・You Tubeなどのソーシャルメディアからの集客が可能になったことである。
SNSを活用することで、自社のファンを増やし集客し、自社ECサイトに誘導し、商品を購入いただき、配送するまでワンストップで行うことができる。
SNSを通じた、消費者の生の声を収集することで、ニーズを把握し新商品の開発やプロモーション戦略なども立て易いなどメリットも大きい。
アメリカEC市場では、SNSを通し20代~40代の接点の場として、ブランド価値を自社から直接発信し、自社ECサイトから直接購入してもらうEC直販の「DtoC」へシフトしている状況なのである。
次に、実際にアメリカで「DtoC」成功事例を見ていこう。
「DtoC」のキーワードとして、定額・定期購入(サブスクリプション)がある。
「DtoC」とサブスクリプションを組み合わせたモデルで成功例として、子供服を販売する「ROCKETS OF AWESOME」がある。
ROCKETS OF AWESOMEは、子供服の定期購入では、予め行ったアンケート結果を元に、子供の好みやサイズに合わせた商品を、年4回、定期的に届けるサービスで、創業からわずか半年という短期間で23億円を調達するほどになった。
「Allbirds(オールバーズ)」はサンフランシスコのシリコンバレーを拠点とするスニーカーの「D2C」ブランドである。
同社の製品は、スニーカーは素材にウールとユーカリの樹皮を採用し、超軽量化されたシューズというところが特徴で、「世界一快適なシューズ」とシリコンバレーを中心に大ヒットした。
「Allbirds」は新規商品を発表する際、インスタ映えする画像を投稿するなど、インスタグラムを通じた広告戦略を展開している。
また、消費者からのコメント、感想を担当者が丁寧に追いかけることで新製品の開発へも反映させている。
「BONOBOS」はメンズアパレル専門として「DtoC」を始めたのは早く、OPEN6ヶ月で1億円の売上に達したDtoCのパイオニア的な存在である。
「DtoC」を行っているメーカーは、実店舗を持っていないところが多いが、EC販売後、実店舗を持つ企業も増えている。
「BONOBOS」は店舗出店以来、店員がユーザーの好みに合わせた接客にこだわっており、お客様にタブレットを持たせ接客を行い、CRM(顧客関係管理)システムの導入でオンラインECと同じ体験を実店舗でも提供している。
「BONOBOS」では顧客一人ひとりに最適なアプローチをするという「DtoC」の特徴を実店舗でも実現している。
まだまだ、日本では本格的なビジネスモデルとして定着していない「DtoC」ではあるが、メーカーから直接消費者に販売するビジネスモデルを成功させるためには、いくつかのポイントがあるだろう。
大前提としては、商品がユーザーにとって魅力的であることである。そしてメーカーは客観的に自社商品の特性を知り、アピールできなければならないだろう。
これらを踏まえた上での成功するには、これまでの成功事例にあるように、いかに、SNSを活用するかとブランド力を高めるマーケティング施策と言えるだろう。
DtoC」モデルが成功した理由は、企業がマス広告を使わず、SNSによっても、多くのフォロワーを取り込み、直接コミュニケーションが取れるようになったことに起因する。
「DtoC」特徴はプロモーションに、従来のテレビCMやウェブ広告などより、SNSを積極的に活用している点にある。
「DtoC」を採用しているメーカーは、顧客データを顧客データをマーケティングや「CRM(Consumer Relationship Manegement)」に活用し、顧客情報を管理することで
、メーカー商品を顧客の特性に合わせて最適なアプローチを行っている。
さらに、「DtoC」を成功させるには、計画的なWEBマーケッティングが必要である。
一過性のテレビ広告や、ただ新商品を羅列するだけのブログ運営などでは自社製品に惚れ込んでくれるような熱狂的なファンを育てることは難しい。
継続的なSNSによるプロモーションにより、人口ボリュームが高く、消費意欲も高い「ミレニアル世代」をターゲットにした戦略が必要である。
Facebook、TwitterやInstagramといったSNSは、商品に興味をもっている人はもちろん、自社のことを知らない潜在的な購買層にもアピールできるツールである。
ブランドイメージの確立に必要なのは、消費者とのタッチポイントをなるべく増やしながら、透明性と対話性を確保し、消費者との距離を少なくすることが重要である。
ナイキは、11月14日、Amazonへの製品供給の打ち切りを発表した。
ナイキにはブランドパワーがあり、Amazonにとっては大きな痛手だ。
Amazonには偽ナイキ製品が多く販売されている現状があり、ナイキはこの偽ナイキ商品を管理できなかったAmazonから離脱し、「DtoC」へと本格的に転換した。
ナイキは既に「DtoC」でも売上の約30%を占めており、今後は自社ECサイトとアプリに投資し、さらに「DtoC」を加速させる見込みだ。
ナイキに限らず、メーカー側が管理できないECモールからの模造品販売は、ブランドイメージばかりではなく、顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益である「LTV(Life Time Value)」をも失うものである。
米ジェフリーズのアナリスト、ランダル・コニック氏は「今後、Amazonから離脱する小売業は増えるだろう」と予想している。
つまり、Amazonがこのままの状況で、模造品に対して更なる対策が進まない場合、ブランド力があり、自社サイトで商品販売も行っているメーカーはナイキのように「脱Amazon化」が進むということである。
2019年のEC市場のトレンドの一つは「DtoC」であり、「DtoC」へのシフトが加速した年となった。
「DtoC」によるメーカー直販は、販売にかかる手数料をおさえることができるので、小売店に卸すよりコストカットができる。
しかし、ブランド力がない場合は、継続的なコンテンツの配信による地道な宣伝活動が必要になり、ブランド周知・構築には専門のスキルやWebマーケッティング手法が必要になるだろう。
「DtoC」は20代~40代の接点の場として、SNSを活用し、いかにリーチすることが鍵と言えそうだ。
参考: