先週11月11日、中国では毎年恒例の「独身の日」キャンペーンが開催された。
まだ、正式な各社の最終売り上げ高などの発表はないが、アリババグループはこの日、過去最高となる2,684億元(約4兆2,000億円)を1日で売り上げたようだ。
いつもながらすごい数字だ。
この4兆2,000億円と言う額は、楽天の2018年度(2018年1~12月期)国内EC総額(3兆4310億円)の1.2倍を上回る取引を1日で行ったことになる。
さらに、この日のアリババグループと中国EC第2位の京東商城(JD.com)の売り上げの合算金額は、4728億元(日本円で7兆3756億円、1元15.6円換算)となり、この額はセブン&アイの年間売上高(6兆7912億1500万円)を大きく上回るものだ。
海外人気輸入国ランキングでは日本が今年も健闘し、アメリカを抑えトップとなった。
今回は、世界のEC市場を牽引している中国EC市場において、日本は今後、どう向かうべきか、それには、どのような課題があるのかなど見ていこう。
毎年、11月11日は中国では「独身の日」と呼ばれ、恒例のネット通販の大型セールが行われる。このキャンペーンセールの売上トップを独走しているのが、アリババ・グループである。キャンペーの開催される数週間前から、オンラインでは買い物予約がなされ、キャンペーンの開催と同時に決済が行われる。
アリババグループでは、この11日の取引額は、2684億元(約4兆2000億円)と前年比26%増加し、過去最高を更新したと発表している。
ただ、伸び率は昨年(2018年)の27%を下回った。
売り上げ経過を見ると、最初の1時間足らずで、1,000億元(約1兆5,455億円)達成し、14時間後には、2,000億元(約3兆900億円)達成するという物凄い勢いである。
海外ブランドも同様に開始1時間で、アップル、ロレアル、ファーストリテイリングのユニクロを含む84ものブランドが、売上高がそれぞれ1億元(約15億4,550万円)以上となったようだ。
また、アリババグループの「独身の日」のキャンペーンには、78の国と地域から2万2000以上の海外ブランドが参加している。
その中で、流通取引総額1億元(約15億4,500万円)を達成したブランド数は299ブランド。さらに、10億元(約154億5,000万円)以上を達成したブランド数は15ブランドとなっている。
海外輸入ブランドランキングは、1位「ヤーマン」、2位「Swisse」、3位「花王」、4位「A.H.C」、5位「Aptamil」であった。
1位「ヤーマン」(日本):美容・健康機器メーカー
2位「Swisse」(アメリカ):ビタミン、サプリメント、パーソナルケア製品
3位「花王」(日本):洗剤、トイレタリー、化粧品
4位「A.H.C」(韓国):美容・医療系コスメブランド
5位「Aptamil」(ドイツ):粉ミルク、ベビー用品
また、人気輸入国・地域ランキングは、1位「日本」、2位「米国」、3位「韓国」、4位「オーストラリア」、5位「ドイツ」だった。
この日のアリババグループの売り上げ金額、2684億元(約4兆2000億円)は、日本のEC市場約18兆円(2018年)の23%の売り上げ額であり、アメリカの感謝祭後の「サイバーマンデー」の売上高79億ドル(約8,571億1,200万円)の約5倍という数字なのである。まさに、中国はこの「独身の日」1日で、「世界のEC先進国」を証明したと言えるだろう。
中国の「独身の日」の活況を見てもわかるように、中国EC市場は今、最も規模、成長力共に、世界ナンバーワンの座に君臨している。
下の図は、2019年4月に経済産業省から発表されたレポートでは、2018年度の中国の市場規模は1兆5,300億米ドル(約165兆円)である。
2018年時点で中国EC市場規模は1.53兆米ドルを超えており、この市場規模の大きさは、日本の約14倍もある。
2位にアメリカの5,200億米ドル(約56兆4,300万円)が続き、次にイギリスの1,200億米ドル(約13兆220億万円)と続いており、中国の前年比増加率は136%で、他国の増加率以上の伸び率を示している。
それでは、この巨大な中国EC市場を引率するのは、どのようなECサイトなのだろうか?
2018年上半期における、中国BtoCの大手ネット通販・ECサイト&モールの売上ランキングからの占有率が下図である。
相変わらず、「天猫」と「京東」の2強で、中国の80%のシェアを占有してるが、最近では、「拼多多(ピンドォドォ)」は新勢力として拡大中だ。
「拼多多(ピンドォドォ)」は天猫などでは商品が高くて手が出でないという消費者に対して、安価な生活必需品を提供することで、地方都市に住む低所得者層の取り込みに成功している。
この中国EC市場では、日本企業のどんな商品が、どんな購買層から購入されているのだろうか。
日本の商品は「独身の日」の結果からもわかるように、信用されており、安心のブランドである。
ここでは、中国現地法人である野村綜研(上海)諮詢有限公司が「天猫イノベーションセンター(TMIC)」と共同でまとめた、「中国EC市場白書2019」より、中国EC市場における日本商品の購入動向などを、韓国、欧米と対比しながら、その特徴を明らかにしていく。
「独身の日」では4年連続のトップであった日本の商品は、安全・安心でクオリティの高い商品として、高い評価と支持を受け、その存在感を示した。
しかし、2019年の上期の中国EC市場における売り上げ金額は、下図にあるように全体の3.2%足らずで、欧米の半分の額にも満たないのである。
中国EC市場では当たり前だが、中国消費者は自国の商品を最も購入し、海外輸入製品は限られたユーザー層による購入だと言うことを示している。
下図は、中国EC市場での欧米、韓国、日本の商品カテゴリーのシェア率を示したものだ。
日本の商品でプレゼンスが高いの商品カテゴリーは、ベビー関連商品(4.3%)、インテリア商品(3.6%)、化粧品(2.8%)、時計(2.4%)である。
これら商品に共通するのは、安全、安心、品質の高さを訴求できる商品であるということだ。
欧米系の製品では、幼児用食品が32.9%と最も高く、さらにパーソナルケア(8.7%)と続き、さらにパーソネルディバイス(6.7%)など、パソコン・家電の順となっている。
日本の商品は、ベビー関連用品や化粧品などを中心に、中国女性層の購買力に依存しているといえるが、欧米に比べるとまだまだ、そのシェアの割合(比率)は低い。
日本の商品を買っているのは、欧米と同様で、30代以上で40%強を占めている。それに対し、韓国の商品は20代の若年層からの支持が高く、突出している。
海外輸入商品の購入は世代により異なるが、日本の商品は、他国の商品と比べても30歳以上の比較的購買力の高い層に支持されており、韓国の商品は化粧品など20代前半のあまりお金に余裕のない若い消費者から購入されている。
「中国EC市場白書2019」では、この中国EC市場に対して、日本の取り組むべき課題をまとめている。
「中国EC市場白書2019」では、韓国と日本の購買層の違いを指摘し、今後は、韓国が取り込んでいるデジタル第二世代にも目を向け、この世代を開拓する必要があるとしている。
中国のEC消費を支えているのは、中国デジタル世代・デジタル第二世代である。
下図を見ると、19歳から35歳の購買層は、アリババの売上の3分の2を占めている。
この層は、収入はまだ低いものの、両親が比較的裕福な世代のため、自由に使えるお金も多い。この19歳から35歳の若い層は人口構成では3分の1に満たないが、アリババの売上の3分の2を占有しているのだ。
この19歳から35歳の層は、デジタル世代、デジタル第二世代と呼ばれており、この世代は中国がネット社会に急転換した時期に育ち、スマートフォンを使いECやアプリを常用している世代である。
下に「デジタル世代」と「デジタル第二世代」の概要をまとめた。
【デジタル世代】
【デジタル第二世代】
日本の商品購買層と、韓国商品の購買層の違いは、韓国系商品は圧倒的にデジタル第二世代に支持されているというところにある。
下図にあるように、L1,L2にあたる購買ランクの若い世代(19〜30歳)が韓国商品を多く購入している。
昨今の中国の20代は学生時代にドラマなどによる韓流ブームの影響で、韓国文化になじみがあり、韓国も早い段階で中国のテレビ局と提携し、ネット配信に舵を切り、若者層に向けマーケティングを行った。
特に、中国若者向けに人気タレントを起用し、微博、RED、TikTokなどSNSを活用しデジタル配信を行い、デジタル第二世代の取り込みに成功している。
日本の場合は、L3,L4,L5にあたる購買ランクの30歳以上の消費者が商品を購入している。
今後、日本企業は中国のデジタル・デジタル第二世代の顕在ニーズを的確に掴み、ニーズに答える必要があるだろう。
そのためには、デジタル・デジタル第二世代のニーズを掴むには従来のアンケート調査、インタビューでは変化の早い中国では難しいだろう。
デジタル・デジタル第二世代のニーズを掴むには韓国のようにSNSなどを活用し、機動的なデジタルマーケティングを展開する必要がある。
さらに、中国向け商品は、日本本社主導型では、スピードが遅れ、中国のITの変化にはついていけないだろう。
中国本土に拠点を置き、中国人による商品企画・マーケティングを実行し、商品開発を行う必要があるとしている。
この「中国EC市場白書2019」を見ると、中国IT・EC市場は今、大きテクノロジーの進化と共に、大きな変革を遂げようとしているのがわかる。
日本の商品は当面は、安全、安心、クオリティなどの視点で見れば、中国製品に優っているが、いずれ、中国製品も日本のレベルに追いつく時がくるだろう。その時に次の戦略を立てるようでは手遅れである。
今後は、中国EC市場を支えているデジタル・デジタル第二世代に向き合い、その行動特性に合わせたビジネスモデルに転換することで、巨大中国EC市場と共に日本のEC市場も成長できると言えるだろう。
参考: