経済産業省のレポート「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」よると、2020年のアメリカにおけるEC市場規模は前年比32.3%増の7,879億USドル(約86兆5,300億円)と推計されている。
アメリカのBtoC-EC市場は、2020年の日本のBtoC-EC市場規模19兆2,779億円の約4.5倍の規模である。
そして、アメリカのBtoC-EC市場は中国の2兆2,970億ドル(約252兆円)に次ぐ市場規模でもある。
2020年、アメリカでは新型コロナ感染症の影響で、外出禁止の広がりから小売店舗閉鎖となり、第2四半期から急速なECチャネルシフトへ加速し、EC化率も14%に上昇した。
今回は「2021年経済産業省のレポート」を参考に、2020年のアメリカEC市場における特徴的な動向についてまとめた。
2020年、アメリカは最も新型コロナ感染症の影響を受けた国となった。
現在はワクチン接種が進む中、一旦は減少した感染者数も、1日平均153,533人(2021年9月10日現在)という高い数値である。
2020年、アメリカでは多くの州で感染拡大防止のためロックダウンによる強制的な外出制限や小売店の営業停止命令が発令されたため、外出して買い物などする人達は大きく減少した。
実店舗の利用が減った一方で、増加したのはECで買い物である。
アメリカで最も利用されるECモールAmazon.comは、前年比32.3%と大きく売り上げを伸ばした。
そして、新型コロナ感染症拡大はアメリカのEC市場にもたらした影響は、ネットショップの売上の拡大ばかりでなく、様々な変化を市場にもたらせた。
例えば、「クリック・アンド・コレクト」、「食品EC市場の急激な拡大」、「DtoC」、「BNPL」などである。
ここでは、経済産業省のレポート「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」を中心にその概要を見ていく。
2020年の新型コロナウイルス感染症拡大により、オンラインで商品を購入して店舗で受け取る「クリック・アンド・コレクト」の利用が急増した。
そして、このオンラインで購入し、店舗で受け取る「クリック・アンド・コレクト」のひとつのモデルとして、車を持つ消費者はオンラインで注文し、指定された時間・店舗まで車で出向き、店舗の従業員が注文品を車両に積み込むという「カーブサイドピックアップ」サービスが普及した。
「カーブサイドピックアップ」はWalmartの成功を受けて、他の生鮮食品事業者をはじめ、アパレル、電子機器、書籍等の大手小売事業者などもこのサービスを導入した。
アメリカの「食品関連のEC分野」はコロナ禍で大きく成長した一年となった。
新型コロナ感染症拡大による「ロックダウン」の影響は、外出制限・禁止によるテイクアウトやデリバリーの利用、さらに、これまでEC化があまり進んでこなかった生鮮食品分野についても、EC利用が急速に拡大した年となった。
その市場規模は245億USドル(約2兆7,000億円)と推計され、2020年第2四半期の売上高は前年比221.4%増と急激な拡大を見せた。
アメリカECデリバリーサービスの「Instacart(インスタカート)」は、2020年、スーパーの商品を即日で届けるサービスを開始した。
このサービスで、Instacartの利用者は急増し、その売上は前年比で500%も成長したという。
Instacartでは現在、従来より、さらに速い配達サービス「Priority Delivery(最短30分で届けるサービス)」事業をアメリカとカナダのいくつかのマーケットで導入するとしている。
アメリカの食品EC市場は新型コロナの感染者数が減少すれば、その伸びは減速すると思われるが、それでも、今後数年間は成長が続くとされている。
「DtoCとは、仲介業者を間に入れずに、製造から販売までを一貫して自社で行うビジネスモデル」である。
「eMarketer」によれば、アメリカにおける2020年のECによる「DtoC」の売上高は178億USドル(約2兆円)と推計され、前年比24.3%の増加したとしている。
増加の要因は、新型コロナ禍のロックダウンによる、実店舗閉鎖や百貨店やアパレル大手の倒産等が影響し、メーカーなどブランドは、小売店へ依存しない販売方法へのシフトしたためである。
また、レポートではアメリカのプライベートブランドの定着がDtoCを加速させているとも記している。
2020年に行われた消費者調査では、回答者の9割がプライベートブランドを従来のブランドと同等の価値があるとしており、アメリカでは「安くで品質の良い製品をECで販売する」プライベートブランドがDtoCを加速させているようだ。
また、メーカーなど、ブランドがエンドユーザーに対しECで直接商品を販売するD2Cビジネスモデルは、エンドユーザーの好みを直接的により深く理解する方法としてもメリットは大きく、今後はさらに浸透するだろう。
2020年12月30日の「Wall Street Journal」によれば、新型コロナウイルスの影響による厳しい情勢のなか、何百万人というアメリカ消費者がクレジットカードでの支払いを避け、「BNPL」決済手段を利用したと言う。
さらに、4月のAdobeレポートでも、2021年1~2月のBNPLの支払は前年比で215%増加し、3月では166%増加したと公表している。
日本には、馴染みのない「BNPL」という決済方法は今後、日本でも普及する可能性は高い。
下の図が「BNPL」決済方法の流れである。
まず、①ユーザー(消費者) がオンラインで商品を購入する際に「BNPL」での支払いを選択する。
②BNPL事業者が支払い方法(一括、分割など)を提示し、ユーザーがその方法決定する。
③BNPL事業者が小売店(加盟店)に立替払いを行う。
④BNPL事業者は商品価格から差し引く形で決済手数料を小売店から徴求する。
⑤決済確認後に小売店がユーザーに商品を発送する。
⑥定められた条件でユーザーが、BNPL事業者に代金を支払う。
BNPL(Buy Now, Pay Later)とは、文字通り、「今買って、後で支払う」という決済方法であり、Eコマースを中心に活用されている新たな決済方法である。
クレジットカード決済も後払いの決済だが、特徴は、クレジットカードと比べて信用調査が厳しくなく、ユーザーに利息や手数料等は課されない点など、ユーザーメリットが大きく、コロナを契機に大きく成長した。
「BNPL」の事業者のメリットは、やはり、消費者がECで商品を購入す際の、クレジットカード情報入力時の離脱が減る点である。
そして、消費者にとってクレジットカードを持つためには、審査や銀行口座が必要だが、BNPLであればこのような障壁はない。
さらに、後払いの方法も、様々あり、一括後払いや短期分割払い(Pay in 3 / Pay in 4)があり、全て手数料ゼロなので、利用者もメリットも大きい。
BNPL決済は、今後の成長ビジネスの一つとして欧米では大きく注目されている。
2021年「BEENOSグループ」の公表したレポートによると、越境ECの代理購入サービス「Buyee」の2021年第2四半期(2021年1月1日~3月31日)の流通総額は前年同期比45.6%増で過去最高を継続更新し、特にアメリカでの流通は前年同期比119%と大幅に拡大したとある。
しかし、2021年の経済産業省のレポート「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」による、2020年の日本のアメリカ向け越境ECの市場規模は9,727億円であり、前年比も7.7%増と2019年より増加率は低く、停滞感が示されている。
下の図を見ても分かるが、2018年まで、2桁だった増加率が2019年には9.7%と一桁成長に、2020年はさらに低くなった。
この伸長率の低下の要因となったものに、アメリカのコロナ感染症急拡大により、4月23日、日本郵便が実施した国際郵便(EMS)のアメリカ配送の一時休止である。
越境ECの配送は、これまで主にEMS等が活用されていたが、それらが利用できなくなったことにより、事業者はFedExやDHLに切り替え、海外配送を行わなければならなくなった。
そのため、アメリカ便配送は遅延や配送料など変更せざるを得なくなり、それらが伸長率を圧迫したものと考えられる。
2021年現在は、EMSによるアメリカ便は再開しているが、EMS特別料金加算され、従来より割高であったり、今後、アメリカの空港や港湾閉鎖により、地域によっては大幅な遅延の可能性も起こるかもしれない。
最後に2021年の予測として「eMarketer」の7月8日の記事を紹介する。
2021年のアメリカのEC市場は、引き続き堅調に成長し、9,333億ドル(約102兆円)、前年比17.9%増加するとされている。
2021年は「アパレル、アクセサリー」が2020年の23.1%上昇し、「家具」、「食品および飲料」、「健康およびパーソナルケア」は、前年比で20%以上成長する見込みである。
また、今後のアメリカEC市場の動向としては、オンラインによる食料品購入として「クリック・アンド・コレクト」は引き続き成長し、2024年までに1409.6億ドル(約15兆円)に達し、「SNSコマース」は2021年は35.8%増の366.2億ドルと拡大し、「BNPL」サービスはEC利用者の約4人に1人が利用するとしている。
アメリカに限らず、中国、日本においても、Eコマースにおいては、その利便性、安全性、そして、次々に追加される様々な新機能により、コロナ収束後も消費者はEコマースを選好し続けるだろう。
参考: