経済産業省は7月30日、「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」を公表した。
レポートによると、2020年の世界のBtoC-EC市場規模は4.28兆USドル(約469兆8,733億円)、EC化率は18.0%と推計されている。
2020年は現在も続く、新型コロナウイルスの世界的感染症拡大を背景に、EC需要が増加し、市場規模及び、EC化率の増加に繋がったと見られる。
そして、世界各国のBtoC-EC市場の拡大は越境ECの拡大にも繋がっている。
また、2020年の日本・アメリカ・中国の越境EC市場規模によると、日本経由の越境ECから、アメリカ消費者の購入額は9,927億円、中国消費者の購入額は1兆9,499億円となっており、2020年は成長率は14%だった。
今回は、2020年の越境EC市場動向と中国の越境ECの利用とインバウンドの関係性について見ていこう。
下の図表は、経済産業省発表の2019年時点の世界の越境EC市場規模の推計値と2026年の予測値である。
2019年の世界の越境EC市場規模は7,800億USドル(約85兆円)と推計され、その値は2026年には4兆8,200億USドル(約528兆円)、約6倍にまで拡大すると予測されている。
越境ECが今後何故、拡大が予測されるのだろうか。
「令和2年度産業経済研究委託事業」レポートでは、越境ECの認知度の上昇、自国にはない商品への取得欲求、自国よりも安価に入手できるものがあること、商品やメーカーに対する信頼性等、さらに、事業者が活発に越境ECによって海外に積極的に市場を開拓しようという姿勢などが指摘されている。
そして、世界の主な越境ECでの購入先トップ3についても触れている。
下の表によると、世界の越境EC購入先国で断然多いのが、中国である。
欧米諸国をはじめ、オーストラリア、インドネシアなど越境EC購入先国ではトップとなっている。
また、中国は購入先国でトップとなっているのが日本であることも重要である。
特に2020年は中国は日本の商品を越境ECで購入する割合が大きく伸長した。
では、2020年の日本・アメリカ・中国3ヵ国間の具体的な越境EC市場数値はどうだったのだろう。
「令和2年度産業経済研究委託事業」レポートによると、2020年の日本・アメリカ・中国3ヵ国間の越境EC市場規模の推計結果は、次に示す内容となっている。
日本の越境BtoC-EC(アメリカ・中国)の総市場規模は3,416億円となった。
このうち、アメリカ経由の市場規模は3,076億円、中国経由の市場規模は340億円であった。
アメリカの越境BtoC-EC(日本・中国)の総市場規模は1兆7,108億円となった。
このうち、日本経由の市場規模は 9,727億円、中国経由の市場規模は7,382 億円であった。
中国の越境BtoC-EC(日本・アメリカ)の総市場規模4兆2,617億円となった。
このうち、日本経由の市場規模は1兆9,499億円、アメリカ経由の市場規模は2兆3,119億円であった。
越境ECを利用して、アメリカ、中国の消費者が、2020年に日本の商品を購入した額を見ると、アメリカの場合は、日本経由の市場規模は9,727億円(前年比7.7%の増)となっている。
中国の場合は、日本経由の市場規模は1兆9,499億円(前年比17.3%の増)となっており、2019年が1兆6,558億円で、前年比7.9%の成長だったことと比較すると、2020年は越境ECで日本の商品を購入する機会が大きく増加していることが分かる。
この要因は、後述するが、新型コロナによる訪日外客数の(インバウンド)の減少によるところが大きい。
下の図は中国消費者が日本の商品を越境ECで購入した額の推移を示したものだ。
インバウンドによる爆買が最高潮だったのは2015年、2016年あたりで、増加率も30%と高い成長を示している。
その後、2017年〜2019年でインバウンドは増加傾向ではあるが、2019年の日本経由の越境EC市場は落ち着きを見せた。
そして、2020年の増加率は落ち着くかに思えたが、再び、上昇した。
下のグラフは2019年時の中国の消費者が越境ECで購入している商品に関するアンケート結果である。
「化粧品、美容関連製品」が40.6%と最も高く、「トイレタリー」(38.2%)、
「健康商品」(35.8%)と続いている。
中国消費者は、メイク関連商品が最も良く購入されており、毎年11月11日に行われる「W11」(独身の日)など、日本のメーカー商品が、最も売れた化粧品とともに公表されている。
インバウンドと越境ECには密接な関係がある。
経済産業省のレポートによると、日本貿易振興機構が過去に行った中国消費者のアンケートで「なぜ越境ECを使って日本の商品を購入したか?」という質問に対し、「日本に旅行をしたときに購入して気に入った製品だから」と答えた消費者が、2017年8月調査では40.4%もあり、インバウンドでお土産として買った商品を気に入り、越境ECでリピート購入されている実態が明らかになっている。
中国消費者の越境ECの利用は、日本に訪日した中国消費者は滞在時に自身の目で見て、確認して購入したお土産などの商品が、起点となり、友人や親戚などにシェアされ越境ECを利用するケースが多かった。
ところが、2020年、新型コロナ感染拡大で訪日出来なくても、中国消費者の越境ECは増加した。
これは、新型コロナ感染拡大で訪日がままならなくなり、訪日出来ない代わりに、せめて越境ECで日本の商品を購入して、インバウンド気分を代用するインバウンド需要が増加したためではないかと推察される。
今回のコロナで中国のインバウンド、2019年の959万人から、2020年は107万人まで著しく減少したが、インバウンドで失われた小売り需要は、越境ECが受け皿なり補完したと見るべきだろう。
訪日によるインバウンド消費が途絶えた今、「中国越境EC」はピンチをチャンスに変える可能性を秘めている。
今回の中国越境ECに見るように、失われたインバウンド消費は越境ECで補完するという動きは世界で同時的に発生している。
特に中国消費者に向けに、欧米ブランドは進出を加速しており、今後は中国消費者に向けた越境ECビジネスは、これまで以上に競争激化が予想される。
「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」
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