先週9月13日より、米アップルは新型「iphone11」の予約を開始した。新型iphoneはトリプルカメラの新機能など紹介されていたが、今回残念だったのは、第5世代(5G)の対応を見送ったことだ。アメリカではすでに5Gインフラが本格化している中での見送りだっただけに、中国に先を越された感が否めない。
中国では、すでに、ファーウェイなどが5G対応スマートフォンを発売している。インフラ的には2019年後半から、それらの機種は利用可能となるらしいが、中国とアメリカの5Gをめぐる覇権争いはこれから本格化するだろう。
日本においては来年2020年が5G元年である。東京オリンピック・パラリンピックでは様々なところで5Gに対応した競技・運営となるだろう。
5Gはネットワークスピードが、従来の100倍の速さになるだけではなく、低遅延、多数同時接続などを特徴とし、自動運転、AIによる工場の自動化、遠隔操作による医療など様々な技術革新が実現すると言われている。
さらに、日本政府は、新しい5G時代を受け未来社会に向けて「ソサエティ(Society)5.0」を提唱している。今回は、2020年から本格化する5Gを整理し、5GによりEコマースはどう変わるか、そのポイントなどをまとめた。
移動通信は1Gから始まり、2G、3G、4Gと進化し続けた。そして、5GのGとは、「Generation(世代)」の略である。
世界的には2019年から本格的に5Gによるサービスが始まり、日本では今年、4月「5Gサービス」を展開するにあたって、総務省は必要な周波数の割り当てを発表した。来年2020年から5Gによる順次サービスが開始される。
5Gには3つの特徴がある。「超高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」である。
5Gにはモバイル端末でのコンシュマーサービスに活用されるほか、自動運転、遠隔医療、農業、さらに、AIによる作業効率化を実現し、IOTの基盤技術としても大きな発展を見ることだろう。まさに、未来映画のような世界が、5Gにより現実化するのである。ここでは、5Gの特徴を整理した。
まず、通信速度が大幅にアップする。従来の通信技術の約1,000倍以上の容量になるため、4Gの最大100倍の速さで、高画質映像である4Kや8Kといった高精細映像も視聴できる。
また、画質、音質が良くなるばかりでなく、ダウンロードスピードも格段に速くなる。5Gは1秒に10GBのデータ伝送能力が可能となる。つまり、2時間の映画データを3秒でダウンロードできるのである。一般的なファイバーでの接続より速いので、LANケーブルはもちろん、Wi-Fiすらなくなるかもしれない。
「遅延(レイテンシ)」とは、データ通信における応答速度を意味する。この遅延が低いほど、快適なネットワーク通信となるのである。WEBサイトの表示速度が5Gになれば、サーバ間のデータのやり取りで、表示を待つことは限りなく「0」に近い。
具体的には、通信の遅延を片道、なんと1ミリ秒(0.001秒)以下に抑えることができるらしい。通信スピードが限りなく「0」になることで、車の自動運転、遠隔操作による手術医療、建設機械の遠隔操作など確実に実現するだろう。
多数同時接続、つまり、多接続が実現することで、IOT「Internet of Things(モノのインターネット)」が加速するだろう。
IOTとは「ものともと、人ともの」がインターネットで繋がり、最適なデータ通信を行うことであった。それには、膨大な数のデバイスの接続が不可欠であった。
5Gでは1kmあたり100万台が同時に接続できると言われている。それは、現在の規格より端末数が100倍となっても対応できるほど、複数の端末が同時接続が可能となるのである。
お正月や災害時など通信制限がかかり、接続不能などはもう起こらない。それらは5Gが実現すれば、過去の出来事となるだろう。
さらに5Gでは電力消費が低いことが特徴で「省電力化」も実現化する。消費電力量は今使っている、電力の2から3分の1まで節電され、充電時間は短縮され、スマートフォンの長時間利用を可能にするだろう。
5Gによる未来社会の特徴は、スマートフォンによる「人と人」の通信問題の解決より、これまで見てきたように、「ものともの」、「ものと人」との活用が多くを占めることになるだろう。例えば、ものとものがデータをやり取りして安全に人を運ぶ、無人運転自動車などへの活用だ。
そして、この5Gの時代となった時、社会は、Eコマースは、どのように変わるのだろう。
参考:総務省「2020年の5G実現に向けた取組」
「5G」の時代は、「超高速・大容量」による高画質動画の実現。「低遅延」による自動運転、遠隔操作に効率化。「同時多接続」によるIOT(ものインターネット)の加速など多くのことが現実化していくだろう。Eコマースの世界でも「5G」は多大な影響を及ぼすに違いない。
WEBサイトの表示速度は限りなく「0」になることで、セッション数が増加するのはもちろん、表示時間遅延で商機を逃すこともなくなるだろう。
さらに、動画によるコマース、ライブコマース、VRコマースといったこれまで、通信速度が遅かったためにできなかった、高画質動画による新しいスタイルのネットショッピングが加速するだろう。
これまでのECサイトは写真とテキストが商品価値を伝える唯一の手段だったが、5Gの時代では動画を活用したコンテンツが増えることが予想される。
動画コマース、ライブコマース、VRコマースなど一つずつその内容を見ていこう。さらに、5Gにより普及するだろうスマートスピーカーによるボイスコマース、未来指向型リコメンデーション、無人自動車配送など、進化するサービスについても見ていく。
動画コマースとはユーザーが動画を視聴しながら、その動画上から買い物ができるコマースである。Vコマース、ビデオコマースなどとも呼ばれている。
言い換えれば、「テレビショッピング動画のEコマース版」である。
動画コマースでは写真やテキストでは伝えることができない商品の使い方など商品の魅力をより多くの情報をユーザーに伝えることできる。
この動画コマースは昨年2018年から拡大しており、2020年から始まる5G時代では高画質動画通信が可能となる動画コマースが本格化すると思われる。
動画コマースをライブで行い、そのライブ上の動画から商品を購入できる、いわば、テレビショッピングのインターネット版である。
このライブコマースでは、インフルエンサーの協力が必須となるだろう。インフルエンサーが商品の魅力を発信することで、視聴者が格段に増加し、さらにCVRの増加も期待できる。さらに、ライブ配信なので、双方向コミュニケーション販売などメリットが大きい。
ライブコマースについてはブログ『ライブコマースはLive Commerceではない』でも解説しているので参考にしていただきたい。
VRコマースは5G時代の画期的な新しい技術として迎えられるものとなるだろう。基本的にはリアルな店舗をバーチャル上に再現して、ユーザーはあたかもお店で買い物をしているようにショッピングを体験できるというものだ。
海外では、アリババやAmazon、EBay、日本では、セブン&アイ・ホールディングスやパルコなど導入実績がある。
現在、VR(仮想現実)はゲームの世界が主流だが、VRを遠隔操作に応用することが5Gの時代では現実化する。機械やロボットの遠隔操作による建設現場作業や医療用ロボットによる遠隔手術などである。これら技術の発展と同時にVRコマースも新たなネットショッピングの形として普及するだろう。
VRコマースについては当ブログ『もう そこまで来ているVRコマース』でも解説しているので参考にしていただきたい。
5Gが現実化する社会では、新しい次元の世界が拡がると予測されている。VRもその一つだが、さらにリードプロダクトと注目されているのはスマートスピーカーである。スマートスピーカーの2019年のアメリカの市場規模は前年比63%増の70億ドルに拡大すると予測されている。
スマートスピーカーの特徴は機械学習、Deep Learningと呼ばれるAI技術である。これらが、5Gの時代では劇的に高度化するだろう。
従来のスマートスピーカーと新しいスマートスピーカーの違いは、その答えの正確性である。
スマートスピーカーの特徴は何か質問をした際にいくつかの回答が選定され、そのなかでたったひとつの選ばれた最適解が返ってくるところである。
AI技術の高度化が5Gでは必須であり、このAIがスマートスピーカーに応用されれば、ユーザー毎に合わせた正確な回答の出力は、スマートスピーカーによる商品の購入が拡大する要因となるだろう。
すでにアメリカでは、Amazon、Googleなどがボイスコマースに取り組み、Eコマースビジネスにボイスコマースが活用されていく可能性は高い。
5Gの未来はAIの進化にあると言える。スマートスピーカーだけではなく、これまでのEコマースのリコメンデーション機能においても大きな変化が見られるだろう。
これまでは、ユーザーは何か欲しい商品があったら、その商品名を入力するか、カテゴリーから検索するなど、探すということから始めなければならなかった。
新たな未来指向型リコメンデーションは「情報を自分で探す」ではなく、「提案してもらい、意思決定する」へ変わると言われている。
未来指向型リコメンデーションとは、ユーザーの買い物履歴はもちろん、SNSにおける友達関係のつながりや多くの嗜好性のグルーピングと推論など、複数のデータを収集、解析、組み合わせにより、ユーザーが求める商品をレコメンド(推薦)するものである。
5G時代のEコマースは、トップ画面にユーザーへのサイトお薦め(リコメンド)商品がずらりと並んでいるだけ、ユーザーはその中から、商品を選ぶだけという時代になるだろう。
ユーザーが自らEコマースサイトで商品名を入力する機会は格段に減るだろう。
公共交通機関や自家用車、商用車が5Gでつながれば、世界中のヒトやモノの移動方法は大きく変化する。
5G技術では交通システムが発達し、交通状況が可視化され、交通網の管理化が進むだろう。
配送においてもドローン配送や、無人自動車による配送なども管理室からの配送状況を把握し監視するという時代になるだろう。
中国では、5G自動運転配送車が北京理工大学中雲智車公司と得威科技公司が共同開発・製造した。まだ、試験運転中であるが、開発チームの責任者である関超文(グワン・チャオウェン)氏によると、5G技術は車両の複雑なシーンにおける遠隔操作を支援し、より正確かつ制御可能な動作を実現するという。
日本では楽天が京東のドローンと共同で地上配送ロボット「UGV(Unmanned Ground Vehicle)」を導入すると発表している。
次世代通信規格「5G」は様々な産業を変えていくだろう。日本では、来年2020年から5Gによる商業サービスが開始される。
2020年から始まる5Gサービスは決して早いタイミングとは言えないが、5Gの存在意義は5G通信インフラにあるのではなく、その5Gインフラを使って何が現実化するか、人のライフスタイルをどのように革新できるかにある。
今回取り上げたEコマースの新しい可能性以外にも、様々な新しいサービスが生まれることだろう。
参考:
https://www.humancentrix.com/columns/what-is-live-commerce.html
https://www.re-fine.jp/sales-up/2019/05/31/01/
https://boxil.jp/beyond/a6505/
https://www.excite.co.jp/news/article/Recordchina_20190907009/
https://getnavi.jp/digital/414787/