ドローン宅配は実現するのか? アメリカ、中国、日本の現況


 

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7月23日より東京オリンピックが開幕となった。開期直前まで紆余曲折あった東京オリンピックだが、大会経費は1兆6,440億円と史上最高額と大きく膨らんだ。
そして、このオリンピックの開会式で一際、式を盛り上げ注目されたのは、1824台のドローンが東京オリンピックのシンボルマークから、地球儀の形に変化し東京の夜空に消える演出だった。
使用されたドローンは、アメリカIntel社「Shooting Star」である。
ドローンは今も続く新型コロナ感染症・パンデミック以降、新たな空の物流として、需要の高まりを見せている。
現在、ドローンを飛ばすには規制の壁が大きく限定的なものとなっているが、それでも医薬品や緊急必需品の配送に目的を絞り込む形で、実用段階に入っている。
今回は、このドローン配送における、アメリカ、中国、日本の現況など特徴的なものをまとめた。

アメリカのドローン規制と宅配事情

Amazonのドローン

2020年、新型コロナ感染症拡大の影響で、アメリカ連邦航空局(FAA:Federal Aviation Administration)は、限定されたエリアでドローンの使用を許可した。
これは、新型コロナ感染対策などの緊急医療用のための一時的な許可であり、今後、2年をかけてドローン運営に関する法律などを整備し、最終的には患者の自宅などに直接ドローンで宅配ができることを目標にしている。

このドローンにおける新しい規制として、2021年1月15日連邦航空局(FAA)は、民生用のドローン(無人航空機)に関する2つの連邦規則を制定した。

ひとつは、これまで、アメリカでは全てのドローン(250g以上)は FAAに登録を義務付けられ、規制除外エリア内のみ、目視の範囲であれば飛行が可能であり、目視の範囲外の飛行についてはFAAの個別の承認が必要だった。
今後は、これら登録ドローンに関しては、原則として、「遠隔ID」装備が義務付けられる規制が新たに設けられた。
「遠隔ID」とは、①製造番号等、②ドローンの緯度、経度、高度及び速度、③ 操縦基地の緯度、経度及び高度、④タイムマーク、⑤緊急信号が含まれ、無線周波放送を通じてWi-Fi等により発信されるものである。
これらは、このいずれも「目視の範囲」でのみ飛行が許可される。

また、これまで、25kg以下のドローンによる、人の上の飛行には、操縦者又は合理的な保護を与える覆いの下、もしくは停止した輸送車の中にいる者の上を飛行する場合を除き、FAAの個別の承認が必要であった。
しかし、今回の1月15日の改正では、ドローンの重量等により4種別に分け、そのいずれかに該当する飛行であれば、FAAの承認なしでも飛行できることとなった。
さらに、夜間の飛行に関しても、ある一定の条件下であれば、承認なしで飛行可能な措置などが盛り込まれている。
1月15日の改正は、これまでドローンが人の上を飛行する際には、FAAの承認が必要であったが、今後は「遠隔ID」を義務づけとともに、FAAの承認が無くても飛行できるとした、これまでの規制を緩めたものである。

アメリカでは、現在、AmazonとUPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)、アルファベット子会社「Wing」の3社が主要なドローン開発・実施企業である。
Amazonは英国やオーストリア、フランス、イスラエルにドローン開発センターも保有しており、2020年9月、アメリカFAAは、Amazonのドローンによる商用配送サービス「プライムエア」を「航空運送業者」として認定した。
これにより、Amazonは試験プログラムの下、ドローンによる配送サービスを開始できることとなった。Amazonの配送エリアはドローンで30分以内で配送可能なエリアである。

また、2019年、アルファベット(グーグルの親会社)「Wing」はアメリカ物流大手フェデックス(FedEx)やドラッグストアチェーン大手のウォルグリーン、地元の小売業者と提携し、バージニア州で宅配荷物、市販薬、スナック菓子、文房具などを届けるサービスを開始している。
また、コロナ感染の拡大を受けて、南部バージニア州郊外の街クリスチャンバーグでの宅配に限られるが、地元レストランや図書館からの宅配サービスも開始している。
また、UPSとMatternetはウェイク・フォレスト・バプティスト・ヘルスの医薬品をドローンで輸送するプロジェクトを開始したほか、アメリカ国内ではノースカロライナ州ローリーの医療施設やフロリダ州の老人ホームで処方薬のドローン配送を実施している。

FAAは2024年までに、最終的なドローン規制をまとめ、公表するとしているが、このドローン大手3社が本格的な商用運用に至るのは、まだ、数年先となりそうである。

中国はドローン宅配より、ドローンの活用に積極的

中国のドローン

ドローンの開発、活用に最も積極的な国を挙げるとすれば中国である。
今年3月には、中国初となるのドローンによる血液輸送ルートが浙江省血液センターと浙江大学二院によって開設された。
また、同月、ドローンによる青海省の電線をリモートによる点検を行い、作業効率が6割向上したなど、報道されている。
さらに、6月には、広東省ではドローンによる生物検体の配送が開始された。
そして、中国では農作業におけるドローンの利用が顕著である。
つまり、ドローンによる、農作物の生育状況を把握するため、カメラによる農地撮影や農薬、肥料散布、種まき等を中心に商用以外でもドローン関連のニュースは耐えない。

ドローン開発が先進的と言われる中国には、深センに本社を置くドローンメーカー「DJI(ディー・ジェイ・アイ)」がある。
この「DJI」は、世界の民生用ドローン市場の7割を占めている。
日本でも7月30日、横浜でDJI「AGRAS T20(アグラス T20)」による農薬散布実演会など開催されたようだ。

中国政府は、ドローンの航空管制や製造に関する制度整備・標準体系の構築し、ドローンの商用利用を積極的に促進している。
中国でドローンによる宅配を牽引しているのは、中国EC大手の京東集団(JD.com)である。
京東集団(JD.com)は中国の物流においては搬送ロボットばかりではなく、京東ブランドの大型ドローンも開発、実証試験を行っている。
現在の大型ドローンの機体の有効積載量は1トン、飛行距離は1000キロ超とも言われている。
京東集団(JD.com)のドローンの配置計画によると、四川省に185カ所、陝西省に100カ所のドローン専用エアポートを建設し、完成後は24時間以内に中国国内のどの都市にもドローン配送できるよう体制を構築するという。
日本では楽天と京東集団(JD.com)は提携しており、楽天商品が京東集団の配送ロボットやドローンで配送される日が来るかもしれない。

日本のドローン宅配は2022年がひとつの目標

西濃運輸のドローン

日本では今年6月4日、ドローンの飛行可能範囲拡大に向けた改正航空法を成立させた。
この改正法では、これまで禁止されていた有人地帯でのドローンの目視外飛行について、2022年度より、機体および操縦ライセンスの認証を得ることで可能となるというもの。
これは、都市部を含めた第三者(ドローン飛行と関わり合いのない他人)上空でのドローン活用を、法改正で一歩前進させたかたちだ。

日本のドローン飛行の目標は、2022年実施予定の「レベル4」と呼ばれる、国交省の許可・承認があれば、「有人地帯における目視外飛行、第三者の上空を飛行する、いわば、荷物を運べるドローン宅配を可能とする」というレベルである。
2021年は、その前段階で「(1)ドローン機体の安全性に関する認証制度の創設」、
「(2)操縦者機能に関するライセンス制度の創設」、
「(3)交通管理、運航ルールの明確化」の3つが整備である。
この3点が整備されることで、2022年には「レベル4」のドローン配送が実現可能となるわけである。

2022年の「レベル4」(有人地帯のドローン配送)に向け、ANAホールディングスや日本郵便、楽天、ヤマト、セイノーなど、多くの国内企業がドローン市場に参画し、将来の労働力不足や過疎化の進行に対する新たな輸送手段の候補として、全国の離島や山間部で事業化に向けた実証実験が行われている。

例えば、4月末には西濃運輸を傘下に抱えるセイノーホールディングスと、提携先のドローンのスタートアップ、エアロネクストは、東京都心から車で約2時間の山梨県小菅村でドローンを活用した配送サービスを始めている。
今後は、全国で816市町村(小菅村を除く)あるとされる過疎地域に、ドローンによる配送サービスを展開していく予定である。

また、楽天は、1月6日、三重県でドローンで離島に商品を配送するサービスを始めた。
これは、離島住民がスマートフォンアプリで注文すると、市内の店舗からドローンが自動制御で離島に商品を届けるというもだ。
日本郵便は6月15日、ACSL(ドローン開発の自律制御システム研究所)と業務提携し2023年度を目途にドローンによる配送実用化を目指すとしている。

日本でのドローンビジネスの現況は、今のところドローン宅配というより、中国同様、農薬散布や種まき、設備点検などに利用されるケースが多い。
これは現在の航空法による飛行規制によるものだ。これらは目視内飛行が前提で、かつ飛行域内に第三者がいない状況でのみ実施できるからである。
今後は、無人地帯における、目視外飛行が増加すると思われる。

下の図は、IT・デジタル分野の市場調査・分析を行うインプレス総合研究所の『ドローンビジネス調査報告書2020』から引用した、今後のドローン市場の拡大予測だ。

ドローンビジネス拡大の予測

街中にドローンが飛び回る風景は、新しい時代として象徴的なものとなるが、人々の安全面の確保やその保証、配送荷物のセキュリティ面など、課題は多い。
ただ、このドローンビジネスは物流、宅配ばかりではなく、正確な3D地形図作成など様々な事業へ応用され、未来に向けて巨大ビジネスとなることは間違い無いだろう。

 

 

参考:

 

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