新型コロナ・パンデミックは、人間の様々な行動様式に変化をもたらせている。
働き方や学び方、コミュニケーション、外食、エンターテイメント、旅行、健康、さらにショッピングなどである。
そして、アメリカでは現在「リテールテック」への投資が、このコロナ禍で加速している。
「リテールテック(retail technology)」とは、実店舗で販売する小売店やeコマース業者、D2C企業の小売業者の事業管理・最適化を実現するためのITテクノロジーを言う。
ITテクノロジーには、小売業者の収益拡大やコスト削減のほか、顧客満足度、顧客体験の向上や商品返品率の低減、コンバージョン率の向上といった業績評価指標を高めることにつながる。
今回は、JETRO/IPA New Yorkの資料「アメリカにおけるリテールテックの現状 2020/08」より、新型コロナ禍におけるアメリカの小売店のITテクノロジーの現況について調べた。
アメリカにおいて、小売業界EC市場でリードしているのは、Amazon、eBayである。
これらEコマース企業が、小売市場で優位性を保持するためには、顧客の期待に応えることを最優先とした、新しい「リテールテック」への投資が必要である。
アメリカのIT調査によると、世界のリテールテックへの支出は2019年は2,036億ドル(約21兆円)、前年比3.6%増となっている。
それでは、具体的にこの「リテールテック」と呼ばれる、実店舗やEコマーステクノロジーの代表的なものにはどのようなものがあるのか見てみよう。
多くの消費者は、実店舗やEコマースにパーソナライズ化された買い物体験を求めるようになっている。
つまり、過去の購入履歴データ等を基に最適な商品を提案するレコメンド機能の充実である。
Amazonのレコメンドエンジンは同社の売り上げの35%に貢献していると言わている。
消費者は現在、情報過多になっており、このレコメンド機能は、消費者が欲しいものを見つけるガイド役として機能している。
消費者はこのガイド役としてのレコメンド機能がある小売業者からモノを購入する傾向にあると回答している。
消費者は小売+エンターテイメントの造語である「リテールテイメント」な商品販売、店舗体験が求められるようになってきた。
消費者を楽しませるスペースとしてのリアル店舗の位置付けが、これからは重要となっている。
例えば、フィットネス事業のPeloton社のショールーム(写真はショッピングセンターにあるPelotonのショールームキオスク)では、消費者が実際に同社の提供するエアロバイク等に乗り様々なオンライントレーニングコースを体験ができたり、地域のユーザー同士を結ぶコミュニティイベントなどを開催したり、様々な体験をブランドの強みとしている。
アメリカでは現在多くの小売チェーン店で、オンラインで注文した商品を実店舗で受け取る「クリック&コレクト」サービスが大きく拡大している。
例えば、アメリカのTarget社のサービス「Drive Up」は、2019年は1,500店舗で提供され、アプリで注文した商品は、「Drive Up」を選択すると、指定された店舗の駐車場まで、1時間足らずのうちに、店舗販売スタッフが持ってくると言うものだ。
レジキャッシュレス化やセルフサービスが定着している中、アメリカでは完全なレジ無しをテクノロジーで実現しようと設備投資を行っている。
Amazon社は、2020年2月25日、シアトル市内にレジなしスーパーマーケット「アマゾンゴー・グローサリー(Amazon Go Grocery)」1号店をオープンさせた。
これまではコンビニエンスストアが主であったが、今回は初のスーパーマーケットのレジ無しであり、店舗規模はコンビニ店の約4倍である。
システムは「アマゾンゴー」と同様で、スマートフォンにダウンロードした専用アプリのQRコードで入店する。
チェックインするとゲートが開いて入店できる。あとは購入したい商品を手に取り、店を出ていくだけの「ジャスト・ウォーク・アウト(Just Walk Out)」となっている。
ビーコン技術を活用することにより、消費者のニーズに応えた、オンラインサービスや実店舗でのより高い買い物体験を提供することに注目が集まっている。
例えば、Target社では広い店内で消費者がショッピングカートリストの商品を見つけ安くするために、Google Mapsのようにユーザーの位置情報を店舗マップ内の青い点で示し、リアルタイムで目指す売り場までの位置を示し、確認することができたりする。
ここまでアメリカの「リテールテック」の代表的なものを見てきたが、この新型コロナ禍においてリテールテックへの投資が加速していると言う。
2020年3月11日~4月30日までの期間で、Eコマースやサプライチェーン、宅配デリバリーのテクノロジーを手掛けるベンチャー企業の資金調達件数は、2019年と比較しても拡大していることや、ライブ配信販売、卸売食料品向けEコマースプラットフォーム、自動配達ロボット、リアルタイムデータ収集・解析ツールといったリテールテックへの投資も大きく増加している。
ここではコロナ禍の中、注目を集める主なリテールテック分野(1)Eコマース、(2)サプライチェーン、(3)食料品・料理宅配について見ていこう。
コロナ禍で苦境となった実店舗では、オンライン需要に活路を見出す業者が増える中、オンラインへシフトする小売業を支援するベンチャー企業が注目されている。
2014年創設のFINDMINE社などは、業績不振に苦悩する小売業者のeコマース売上拡大を支援するAIベースのマッチング商品(complete-the-look)レコメンド機能を提供している。
2014年創設のFINDMINE社が提供するレコメンドは、AIベースのマッチング商品を提案するものである。
このレコメンドソリューションは、消費者の選択した特定の商品と合わせるとカッコ良く決まるアクセサリー商品を商品詳細ページやユーザーのアカウントページ、会計を行う前の商品確認ページ内に表示することが可能なものだ。
また、このレコメンド機能は、SAP社、Oracle社、Shopify社、Salesforce社を含む幅広いeコマースプラットフォームと統合可能となっている。
また、先に記した、クリック&コレクトは、この新型コロナ禍で大きく拡大している。前年同期比の推移でいうと、2020年4月以降に急上昇し、2倍を超える上昇率で5月にピークとなっている。その後やや落ち着き、7月に再び上昇している。
特に利用されているサービスは、「カーブサイド・ピックアップ」と呼ばれるもので、オンラインで注文して、店舗の駐車場で待つと車まで、スタッフが商品を届けると言うものである。
Adobeのレポートによると、クリック&コレクトでの売上高に関する前回の予測値38.6%増を、60.4%増に引き上げ、585.2億ドルと修正した。
Eコマースフルフィルメントのコスト高騰と店舗配送需要の高まりを背景に、実店舗とオンライン販売において、商品の在庫状況を統合して管理する、効率的な配送を実現するソリューションにニーズが高まっている。
アメリカのFillogic社は、ショッピングセンター内の未使用スペースを様々な小売業者が利用可能な専門物流センターとして改装し、顧客宅までの配送を同社の統合システムネットワークを活用して最適化し配送している。
これは、小売ストアに付加価値サービスを提供したいと考えるショッピングモール管理者のニーズを考慮して開発されたもので、このソリューションを用いることで、配送コストを10%以上削減できるとしている。
新型コロナ禍は、これまで、あまり利用されていなかった食料品の宅配、料理などの宅配事業を大きく成長させた。
アメリカの食料品の宅配を主とするInstacart社は新型コロナ禍で需要が急増し、空前の成長を遂げている。
資料によると、2020年3月における同社のモバイルアプリケーションのダウンロード数は前年比218%の増加。受注件数は過去12カ月間で500%の伸びを記録した。2020年4月だけも純利益は1,000万ドル(約10億5,000万円)になるなど凄まじい勢いだ。
Instacart社は、2012年創業の食料品など中心に即日配達サービスを行う企業である。
日本にはまだ定着していないサービスだが、消費者がオンラインで注文した生鮮食料品などの買い物を代行するサービスである。
消費者はアプリを通じ、Instacartプラットフォームで販売する食料品を選ぶと、近くのショッパーと呼ばれるInstacart登録アルバイトが買い物をして、早い時は1時間から即日中に配達を行ってくれる。
Instacartは、コストコやCVS(ドラッグストア大手)などの大手と連携しているため、自分で買い物に行くよりも効率的である。
消費者としては、インスタカートアプリという一つのUIから、複数のお店の商品を同時に購入できることに大きな利点があると言う。
また、アメリカのDoorDash社もInstacart社同様、このコロナ禍で大きく成長している企業だ。DoorDash社はいオンラインプラットフォームによる料理宅配サービスである。
DoorDash社は契約したレストランのテイクアウト料理を、DoorDashから注文した利用者の自宅に届けるサービスである。
アメリカのフードデリバリー事業シェアは、Door Dash(ドアダッシュ)が42%。次にGrubhub(グラブハブ)が28%。Uber Eats(ウーバーイーツ)が20%のシェアと、この3大手がほぼ独占している。
この中でも、DoorDash社は他より一歩リードしている。その理由は、レストランの契約店数の多さとユーザーにとって使い易いモバイルアプリケーション設計やサービスの質の高さである。
例えば、利用者はDoorDashアプリから欲しいメニューを選択すると、レストランの混雑具合や料理の推定到着時間が通知される。
注文料理の完成から集荷時間など、注文した料理が今、家からどれくらいの距離に来ているか逐次報告が入るなど、利用者は注文から料理の到着まで安心して待つことができる。
また、このコロナ禍においても、DoorDash社では大きな打撃を受けた外食産業を支援するため、提携レストランに対する手数料を1カ月間無料にしたり、最大2,000万ドルのマーケティング支援プログラムを立ち上げるなどイニシアチブを発揮している。
新型コロナ・パンデミックは全ての企業において、何らかの形で対応、変化を迫られている。中でもリテール業においてはその影響は大きいと言える。
新型コロナはマイナスの影響も大きいが、DXをかなり後押ししている側面もあり、
レジなし環境やキャッシュレス化、対面作業を減らすための自動化テクノロジーを取り入れた店舗づくりや、店舗での接客によりも、非接触での販売を重視するなど、これまでの考え方を大きく変えることが迫られている。
リテール事業者は、消費者ニーズ「顧客の声に耳を傾ける」に集中する必要があるだろう。
参考:
米国で急成長するBOPIS(オンラインで購入して店舗で受け取り)について―Adobe調査
タグ: Eコマース, アメリカ, リテールテック, 新型コロナ