経済産業省の「平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備」報告書によると、2018年の日本国内のBtoC-EC市場規模は17兆9,845億円となっており、EC化率も、6.22%と右肩あがりの増加傾向となっている。その中で、食品におけるEC市場(フードEC市場)を見ると、その市場規模は1兆6,919億円と高い数値であるが、EC化率は2.64%と非常に低いと言える。
食品のEC市場規模は「ファッション/雑貨」の1兆7,728億円の次に大きな市場規模であるが、EC化率は「ファッション/雑貨」の12.6%と比べると、2.64%と低いのである。このフード(食品)EC化率が低いのは日本に限らず、アメリカ、中国、欧州なども共通する。
ただ、フードEC化率の前年からの伸び率を見ると、8.60%と非常に高い数値なのである。この食品部門のフードEC化は市場規模も大きく、企業の取り組み次第では、数年後にはさらに高まり、拡大することが予想されている。
今回は、食品におけるEC(フードEC)の現状と課題、アメリカの事例などについて見ていこう。
※フードECの2018年の市場規模やEC化率については以前のブログ「2018年の日本のEC市場規模は緩やかに上昇」を確認願いたい。
前段で説明したように経済産業省の「平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備」報告書によると、2018年の食品部門のBtoC-EC市場規模は、1兆6,919億円であり、EC化率は2.64%となっている。食品部門のEC化率は各部門別では最下位の数値である。
そして、2018年10月16日、食品企業(製造業、卸売業、小売業)のECに関する内容について、詳しいデータを日本政策金融公庫が「食品産業動向調査:電子商取引」として公表している。
これは、食品関係の製造業、卸売業、小売り部門に関係する企業に対して、フードECへの取り組み現況とEコマースを導入する上での課題などを調査し、まとめたものだが、ここでは食品企業の小売り部門に絞って内容を整理した。(小売業に関するものはいわば、BtoC-ECとして考えて良いだろう。)
資料を見ると、実際に何らかの形でフードECに取り組んでいる小売業は約6割という数値である。
売り上げ的にはフードECでの売り上げが20%以下が54%と最も多くなっている。
つまり、フードEC販売額は全売り上げの20%以下となるが、6割の企業は何らかの形で、フードEC事業を行なっているのである。
さらに今後はフードEC規模は拡大したいと意向する企業は55.7%と非常に前向きであることがわかる。
小売業ではフードECによる売り上げを、20%以上、40%から60%にまで上昇させたいとする企業が多い。
食品関連の小売り事業者はフードEC拡大に期待としていることが示されている。
最後にEC拡大にあたっての課題についても調査している。
食品部門の大きな課題は、鮮度ある食品をどのように早く消費者にお届けするかが、課題とされている。今回の調査でもその内容が浮き彫りになっている。
小売業、100億円未満の企業では、課題のトップが「雇用増等の労働力の確保」が34.1%でトップ。次いで、「新技術の導入(物流作業の自動化)」が26.8%、3位に「現状のまま対応可能である」が24.4%となっている。
100億円以上の企業では、トップは「新技術の導入(物流作業の自動化)」が29.4%となっており、次に、「現状のまま対応可能である」が26.5%、3位に「物流施設の強化」が23.5%となっている。
この調査結果を見る限り、課題は、消費者からの受注から配送に至る物流拠点の整備と拡大、さらにEコマースを運用する人員の確保が挙げられる。
これらを解決できれば、64兆円という物販部門で最大の市場を有する、食品部門のEコマース化は進展は間違いないだろう。
次にフードECの課題を整理した。
食品・食材のEC化がなかなか進まないのは、消費者がもつ、食品に関しては自分の目で見て選びたいという欲求と供給サイドのフードECに特化した本格的な物流拠点が少ないことが問題としてある。
そして消費者ニーズとなっている、他より、鮮度の良いものを選びたいや近くのスーパーやコンビニの方が利便性で勝るなどである。
これら、フードECに関する課題を以下にまとめた。
野菜や、肉、魚といった生鮮食品は手にとって鮮度や産地を選んで購入したいという消費者は多く、この鮮度をフードECでは確認できないため、ECサイトより、実店舗で食品、食材を購入する。
商品を手にとって安心、安全を確かめるニーズが高いために、フードECは成長しない理由となっている。
フードEC事業者は安心・安全な商品を品質保証し、販売することが第一である。
また、食品を単品ではなくセットにして、献立メニューとして販売するなど工夫が必要だろう。さらに消費者の趣向、ニーズに応じて、献立メニューを毎回違えるなど施策し、消費者の満足度を高めることが必要だろう。
近くにコンビニやスーパーがある都心では、ネットで食品を買うという利便性に、フードECは勝てないだろう。
現に、ファミリーマートやローソンはネットスーパーから撤退している。
原因はネットスーパーでは注文から、店舗ピッキング、配達と手間がかかり、人員の確保が問題となることや、フードEC利用者が伸びず、ビジネスモデルが成立しなかったためである。
近くのスーパーやコンビニの利便性に負けない、フードECならではの本格食材、希少食品の販売し、受注から出荷までの業務を効率化できる通販システムの構築を施策することが重要である。
生鮮食品ではその食品に合った、適温管理が欠かせない。そのための物流拠点の確保がもっとも重要である。鮮度を保ったまま保管できる物流拠点の確保は、EC事業者にとっては負担が大きい。さらに消費者に配送する配送料も負担しなければならない。
日本政策金融公庫の調査にもあるようにフードECの鍵は物流拠点である。
物流拠点に関しては、フードECに関係する複数の食品メーカーが連携して物流拠点を構築し、配送なども共同で行うなど、企業間の連携強化が求められる。
フードECを牽引しているのは、「Amazonフレッシュ」であり、このAmazon仕様が今後のフードECのビジネスモデルになるだろう。
Amazonフレッシュには、野菜、果物、鮮魚、精肉などの生鮮食品や専門店グルメから日用品まで 10万点以上の商品の購入が可能となっている。
Amazonフレッシュは、Amazonプライム会員向けサービとなっており、スーパーの商品が一通り揃っている。販売は今のところ、東京・神奈川・千葉の一部地域のみとなっている。
また、こだわり食品・食材も多数取り揃えており、人形町は今半の精肉、モンシェールで人気の「堂島ロール」、Oisixの有機野菜をはじめとする厳選した野菜など、スーパーやコンビニでは購入できない食材も販売している。
また、Amazonフレッシュでは「鮮度や賞味期限保証サービス」を設けており、ユーザーの不安をなくすよう努力している。結果、会員数は、9か月間で2倍以上増加している。
アスクルが持つ個人向け日用品ショッピングサイトの「LOHACO」が、セブン&アイと連携して、生鮮食品宅配サービスを行う「IYフレッシュ」は、家事や仕事、育児で忙しい、30~40代の働く女性や子育て世帯をメインターゲットとし、献立の考案から、10分以内で料理が完成する「オリジナルミールキット」などを中心に販売するフードECである。
入会金・月会費・年会費などは完全無料で、いつでも自分が使いたいタイミングで利用できる。
配送地域は、東京都新宿区、文京区と限定的だが、アスクルの物流ノウハウを活用することにより、消費者は配送時間を1時間単位で指定できるところが大きなメリットである。
2018年10月、楽天と西友が合同で運営する「楽天西友ネットスーパー」がオープンした。
西友の実店舗が拠点となり、生鮮食料品も配送が可能である。
利用者は順調に伸びており、以前に西友が運営していた「SEIYUドットコム」と比較しても新規会員獲得数は3倍のペースで伸長しているという。
食品点数は、2万点とAmazonフレッシュに比べると少ない印象はあるが、それでも全国17都道府県に対応している。
範囲がここまで広くなったのは、楽天西友ネットスーパーの強みである。
「楽天西友ネットスーパー」では楽天ポイントも貯まり、「楽天カード」も利用できる。
サービス開発担当取締役、野村佳史氏は、「海外と比べてまだ市場は小さいが、ネットスーパーは確実に成長する分野だ」と強気の姿勢を見せている。
アメリカでも、フードECは今後10年で5倍に成長するとしている。
アメリカのEC食品市場は2017年は約142臆ドル(約1兆5,243億円)の売上を見込んでおり、2021年には297億ドル(約3兆1,881億円)に到達すると考えられている。
2017年時点では、食料品、飲料の売上高に占めるフードECの割合は4.3%程度であるが、2025年までには高ければ約20%のシェアを占めるのではないか、最低でも8%は確保するだろうと予測されている。
アメリカのフードEC市場には、Amazonフレッシュ、FreshDirect、Walmart、Safewayなどが参入している。
そのほかには食品宅配アプリ「インスタカート」がある。
この「インスタカート」はアメリカでの新しいビジネスモデルとして注目されている。
「インスタカート」は元アマゾンのエンジニアが2012年に創業したお買い物アプリである。
使いやすいUIと、最速で1時間後からの即日配達などがユーザーに支持され急成長した。2018年10月時点で76億ドル(約8411億円)の企業価値をもつ会社となった。
特徴は消費者がアプリで、地元の複数店舗で生鮮食品など、食品を含む商品を注文すると、「ショッパー」がそれら商品を購入し、注文後、2時間以内であれば3ドル99セント、1時間以内であれば14ドル99セントの手数料で家まで届けてくれるいうビジネスモデルである。
消費者はコストコやドラッグストアなど複数のお店(インスタカート提携店舗)の商品を購入でき、商品を家まで数時間で届けてくれるところが大きな利点である。
いわゆる食品を主とした買い物代行サービスであるが、アメリカではこのような新種のフードECがトレンドとなっている。今後の動向に注視していきたい。
今後のアメリカの食品市場はフードECの伸長が実店舗の崩壊を招くものではなく、オンラインと実店舗の双方の棲み分けが、明確になっていくだろうとしている。
つまり、今日のスーパーにある缶詰や箱詰め食品は、売り場から姿を消し、フードECからの販売が主になり、実店舗では消費者が直接手にとって購入する生鮮食品や惣菜やパンなどが充実し、さらにフードコートや寿司バーなど展開するることで、消費者を店舗に引きつけるサービスが増加すると予測している。
アメリカの食料品小売業者は、現在、将来を見据え、さまざまな実店舗とフードECを統合した、ビジネスモデルを模索していると指摘している。
今後、フードECが消費者の間に定着するには、もう少し時間が必要だろう。
大きな壁は、調査内容を見てわかるように物流拠点の構築・拡大である。だが、楽天と西友やロハコとセブンイレブンが提携を行なったように、既存物流網と提携・連携することで一気にサービスの拡大を図れるのではないだろうか。
そして、EC化率が低いフードECではあるが、アメリカのようにフードEC部門と実店舗部門の住み分けを行うなど、業務改革を断行することで潜在的ニーズの高いフードECは、もっと大きく成長すると思われる。
図表:「食品企業の約6割が電子商取引(EC)に取り組む~ECに取り組む食品企業の約半数が取扱いを拡大する意向~(日本政策金融公庫)」より作成した
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