新型コロナ禍が沈静化しつつある中国では、既に経済活動が回復しつつある。中国は第二波の感染拡大を最小限に抑えるために鎖国状態による厳格な対策が取られている。
そのような中、今、コロナ禍によるオフライン消費からオンライン消費への一層の移転が進行している。特に生鮮食品のオンライン販売が大きく伸びている。さらにライブコマースの利用者の急増、越境ECでの売り上げの上昇など、消費行動は大きくデジタルへの移行がうかがわれる。
そして、中国ECの業界マップが、今、変わろうとしている。
以前は淘宝(タオバオ)と天猫(Tmall)を擁するアリババがトップ、次に京東(ジンドン)という不動のツートップの構図に、2015年創業の「拼多多(ピンドードー)」が猛烈な勢いでシェアを拡大しつつあり、既に京東(ジンドン)を追い抜き、中国EC番付け2位となった。
その急成長の鍵は「ソーシャルEC」と呼ばれる新しいモデルである。今回は、中国EC市場を席巻する「拼多多(ピンドードー)」の新時代のマーケット戦略について調べてみた。
2019年の資料によると、市場取引総額(GMV)は16兆円、アクティブユーザー数5,852億人と公表されている。
「拼多多Pinduoduo(ピンドードー)」は2015年9月創立し、2018年にユーザー数は3億人を超え、取引総額も1000億元(1.5兆円)を超えた。同年7月にはNASDAQ証券取引所にPDD(ピンドードー)として上場している。創業3年足らずで上場するとは、驚異的なスピードに驚く。
そして、今年5月22日、拼多多は2020年の1~3月の決算を発表した。
売上高は前年同期比44%増の65億4100万元(約990億円)で、時価総額は822億7700万ドル(約8兆8600億円)に達した。この数字は、中国三大ECの一つに数えられる京東集団(JD.com)を90億ドル(約9700億円)程度、上回っているのだ。
この2020年1〜2月「拼多多」は新コロナ禍下、外出自粛により、売上、ユーザー数(6億人)を一気に加速させた。
ここまでの成功の鍵は一体なんだろう。
それは、「拼多多」の新しいECの販売戦略、「ソーシャル+EC」マーケティングである。
前回、Facebookが「ソーシャル+EC」サービスを開始したとお伝えしたが、既に中国「拼多多」はSNSをベースにした、Eコマースを「バイラルマーケティング」を活用して大きな成功を収めているのだ。
それでは、「拼多多」の「ソーシャルEC」とはどのようなものなのか、次に見ていこう。
※「バイラルマーケティング」とはクチコミを利用して不特定多数に広まるよう仕掛けていくマーケティング手法。
「拼多多」の「拼」とは、多くのひとが集まって集団購買するソーシャル性を意味しており、集団で商品を購入することで価格が安くなるというシステムを構築し、販売網を拡大した。
つまり、「拼多多」は中国最大のSNS「Wechat」と連携し、WeChat内の友達へ共同購入を募集することを可能にし、口コミで周囲を巻き込みながら商品を買わせる仕組みをネットショッピングに取り入れたのである。
「Wechat」とは中国の月間ユーザー数25億人というとんでもないSNSである。日本でいうLineのようなものだ。
「拼多多」はこの「Wechat」の中で、共同購入できるシステムを構築した。
中国消費者が「拼多多」で商品購入する際、「Wechat」の友達を集める(アクセス数を集める)ことで、グループ買い(まとめ買い)割引が適応され、商品を定価より安く購入できるのである。
商品によっては、たくさんのユーザーを集める(アクセス数を集める)ことができれば、”最大0元”になることも可能だという。
「拼多多」はバイラルマーケティングによりSNS拡散することで、集客し、グループ買いによる低価格に商品購入を実現した、「ソーシャルEC」+「グループ購入」の新しい販売モデルを展開したところが大きな特徴である。
「拼多多」のキャッチコピーは「新しいEC創業者、共同購入でさらに低価格」である。拼多多ではグループ購入割引ができ、さらに、商品は低価格帯商品が多い。
例えば、トイレットペーパー、50ロール(半年分)が6.8元(約105円)で買える。品質面は保証の限りではないが、びっくりするほどの低価格である。
驚異的な低価格化は、地方都市(3級、4級都市)の農村部や低所得者に積極的にアプローチするための戦略である。このアプローチが成功し、1年半で2億人の新規利用ユーザーを増やしている。
中国の1級、2級都市は、上海、北京、深セン、広州、成都、杭州、大連、重慶、天津、などの商業中心都市で、こちらはすでにアリババグループ、京東(ジンドン)がシェアを確立している。
そこで、「拼多多」は手付かずだった3級、4級都市、ハルピン、石家庄、温州、長春、南通、佛山、など地方ユーザーをターゲットに、低価格帯商品で勝負し、シェアを大きく拡大した。
中国月間アクティブユーザー6億人、時価総額はeBayを超える「拼多多」は、2019年2月には「越境EC」にも進出している。
今のところ、海外顧客は招待制となっており、「拼多多」から選出された事業者、または新規に招待された事業者のみに出店が許可されている。
越境ECの名称は「拼多多国際」。「拼多多国際」には4つの形式が用意され、35銘柄以上の登録商標を持つ業者向けスーパーマーケット形式やブランドの独占販売権を持つ業者向けの旗艦店などがある。
今後、3年間で50万の海外中小店舗事業主を集める予定で、エリアは日本、韓国を中心に、東南アジア、欧米でも採用予定である。
また、「拼多多国際」の販売戦略は、「拼多多」の低価格=安かろう悪かろうから、高価格帯の市場獲得へ路線を変更している。
越境ECで海外ブランドを購入する中国人は、少しぐらい価格が高くとも、質の良いものを求める購買心理がある。
その高額でも質の良い海外製品を買うという心理をしっかり捉え、そのニーズに応えようというのが、「拼多多国際」である。
また、越境ECで売られている海外製品は、国産品より高くつくが、越境ECプラットフォームでは、従来の輸入ルートより、安価に商品が手に入ることを、中国消費者はとっくに理解している。つまり、中国では越境ECを利用すれば、正規輸入ルートで海外商品を買うより十分安く買えるのだ。
そして、「拼多多」は「拼多多国際」の事業を拡大することで、格安商品販売からイメージ脱却を図っているようだ。
高級路を打ち出すことで、薄利多売から、厚利少売での利益増大へ移行するのかもしれない。
世界のEコマースはAmazonに倣えと言われるが、「拼多多」はこの世界EC市場で、SNSとECを融合し、グループ購入というAmazonでさえ行っていない、独自のEC販売形態を確立し成長している。
そして、次に気になるのが、「拼多多国際」越境ECプラットフォームである。「拼多多国際」は新たな越境ECプラットフォームとして、Tmall(天猫国際)を脅かす存在になるのだろうか?
日本企業は、この新興越境ECプラットフォーム、「拼多多国際」で中国市場に打って出るのも良いだろう。
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