東南アジアのインターネット経済の勢いがすごいと聞く。特にEコマース分野においては成長が著しい。
Googleとシンガポール政府系の投資会社テマセク・ホールディングスによる「2018東南アジアインターネット経済レポートによると、この3年間、東南アジアEC市場の年平均成長率は62%を超え、2018年の流通総額(GMV)は230億ドル(約2兆5000億円)に達したとしている。
また、このレポートでは、2025年にはEC流通総額は1000億ドル(約11兆円)を達成すると予測されている。そして、東南アジアのEC市場におけるEC化率は2~3%と低いことから、まだまだ伸びしろはあるとも言えるだろう。
今回は、『平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備』を基に東南アジアの越境EC市場を中心にまとめてみた。
『平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備』では、世界の越境EC市場は2017年に5,300億ドル(約57兆円)と推計されており、今後も20%超のペースで拡大を続け、2020年には9,940億ドル(約107兆円)に達するとしている。
下記図表によると、地域別では特に、アジア太平洋市場が伸長することが示されており、2017年の統計ではアジア太平洋のEC市場は2,180億ドル(全体の41%割合)であったものが、2020年には4,760億ドルの2倍以上と予測され、その割合も全体の48%まで成長するとしている。
世界の小売り市場におけるEC化率をみると、2017年においては10%を上回るのが、中国の20.4%、台湾の10.4%、アメリカの11.8%、韓国の18.8%、イギリスの19.3%となっている。
日本は7.9%と10%に達していない。東南アジアではシンガポールの5.4%が最も高く、注目が集まるインド市場やASEAN諸国市場は、全体的にEC化率が低い。
シンガポール以外の東南アジア諸国ではインドネシアが2.3%、タイが1.8%、マレーシアが2.7%、南アジアではインドの4.9%などとなっている。
インド市場はその中でも、今後、数年にわたって年20%~30%平均で急成長し続けると予想されている。
東南アジア諸国でEC市場規模に占める越境ECの割合で高いのは、マレーシア、タイ、シンガポールにおいてである。
3か国のEC市場規模はそれぞれ20億ドル(約2,159億円)程度であるものの、マレーシアは54%、タイは38%、シンガポールは23%と、それぞれ越境EC市場規模は高い数値を示している。
どのような越境ECサイトが利用されているかについては、マレーシアでは、Alibaba グループのAliExpress、Taobao、Lazadaが最も利用されるサイトとなっている。
タイでは、Lazadaを通じてTmall.com、Taobaoの商品が購入可能となった。
また、Shoppee社が中国からタイに向けた配達の改善を目指してDHLとの協業を発表するなど、今後は中国製品の購入も活発化しそうである。
シンガポールの場合は400シンガポールドル以下の物品の越境EC購入に関する非課税措置がなされ、文化・言語多様性により他国のサイトからの購入に対する消費者の心理的なハードルが低くく、より良い商品を求めて越境ECを活用していると思われる。
シンガポールで利用されている越境ECサイトは、Lazadaをはじめ、Qoo10などである。
また、売れ筋商品はシンガポール、マレーシアではアパレル・アクセサリーがよく購入されており、タイではおもちゃ・ギフトがトップである。
日本の商品を購入する際に、どのECサイトを利用するかの質問で共通する回答が、東南アジア最大級のECサイトである「Lazada」である。
その次にあがるのが「Shopee」である。「Shopee」は近年急成長を遂げており、インドネシアではトップにランクしている。
Amazonも後発ではあるが2017年ローンチし、ベトナムなどでは人気が高い。
今回は、「Lazada」、「Shopee」、「eBay」を取り上げた。
東南アジアEC市場最大のサイトである、「Lazada」は中国のアリババグループが所有するECサイトである。特徴は東南アジアでは浸透していないクレジット決済ではなく、代金引換に対応している点である。
シンガポールのほか、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムに展開されている。
「Shopee」は2015年、シンガポールで設⽴し、東南アジアから台湾までもカバーするまで、成長している。
2018年までで、シンガポールをはじめ、インドネシア、台湾、ベトナム、タイ、フィリピン、マレーシアと展開している。
中国のTencentも出資者に名を連ねており、ハッシュタグが盛んに使用されており、SNS感覚で広がりやすいという特徴もある。
カテゴリーとしては、home&living、health&beauty、baby&toys、fashionなどである。
日本のヤフオクのようなオークションサイトの世界版が「eBay」ある。「ebay」の利用が多いのは、ブルネイでの利用が高い。日本からは「ebay japan」から出品でき、世界130か国以上への販売が可能である。
『平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備』では世界のECトレンドトピックもまとめられている。
一つは「モバイルコマース利用者がアジアECを牽引」、二つ目は「食品・飲料市場のEC化」である。
まず、「モバイルコマース利用者がアジアECを牽引」については、特にアジア諸国において、スマートフォンなどモバイル機器が普及し、モバイル機器を活用した、モバイルコマース化が顕著であるとしている。
モバイル機器を利用したEC売上高を示すモバイルコマース市場規模は、2018年には1兆8千億米ドルと推計され、今後2021年までに毎年25%のペースで拡大し、3兆5千億米ドルを上回る規模に達するとしている。
下図は、モバイルコマース市場における地域別割合の図であるが、アジア太平洋が77%を占め、北米12%、西欧諸国は8%程度となっている。
中国が最大のモバイルコマース市場で、全体の69%を占めている。
そして、今後はPC普及率の低い東南アジア諸国が急速に増大するとみられている。
二つ目のトレンドは「食品・飲料市場のEC化」である。
2018年の食品・飲料分野のEC市場規模は、第1位は中国で369億ドル、次いで米国159億ドル、韓国が149億ドル、日本は4位の89億ドルと推計されている。
具体的には、中国では、アリババ、JD.com等の大手が牽引役となり、食品分野が前年比23%の市場拡大を記録している。
また、アメリカではAmazonによる大手食品小売事業者の買収により、食品小売部門のEC事業に参入により、顧客層を広げ、前年比17%成長を記録した。
韓国も食品・飲料分野が前年比37%の成長率を記録した。
インドでも食品・飲料分野のEC市場規模は2億9,000万ドルで、前年比50%以上の市場拡大を記録したとしている。
日本では食品・飲料分野のEC化はトレンドとは言えないだろう。食品業界のEC化率は2.6%と低く、EC化が進んでいないのが現状である。
トランスコスモスでは、「アジア10都市オンラインショッピング利用調査 2019」を公表した。
この調査は、東京をはじめ台北、上海、マニラ、ハノイ、シンガポール、バンコク、クアラルンプール、ジャカルタ、ムンバイの10都市のEC利用者3200人を対象とし、都市の特徴、傾向などを明らかにしようとしたものである。
今回の傾向として明らかになったのは、東京以外の地域都市では、ショールーミング、ウェブルーミングが盛んに行われているということだ。
ショールーミングとは、実店舗で商品を見て商品を確認して、ECサイトで商品を購入することであり、ウェブルーミングとは、ECサイトで商品を確認して、実店舗で商品を購入する方法を指す。
ショールーミングの経験割合は東京が62%に対して、ほかのアジア都市はいずれも80%以上を占めており、ウェブルーミングの経験割合も東京の54%に対して、北京、台北は70%台、他の都市は80%以上となっている。
結果として、ショールーミングとウェブルーミングの両方を行っている利用者(オムニチャネルショッパー)の比率は東京が32%に対して、ほかのアジア9都市は70%~80%台(平均 77%)と大きな差がみられる。
東京だけが特殊と言えなくもないが、東京以外の9都市では、実店舗とECサイトの共存が行われていると言えるだろう。
出典:https://blog.trans-cosmos.co.jp/research/
東南アジアのEC市場ではシンガポール、タイ、マレーシアが牽引的存在である。
理由はこの3カ国はインターネットインフラが整備され、スマートフォンが消費者により身近になりつつあるからである。
そして、「アジア10都市オンラインショッピング利用動向」にあるように、オンラインとオフラインの融合もその一端を担っているだろう。
これまでは、「オンラインのEC」と「オフラインの実店舗」はどちらかが成長すれば、どちらか一方の利益を奪うとされてきた。
しかし、2019年はその状況が変わるという見方が強い。東南アジアの多くの小売店が、「信頼おけるパートナー」として、ECプラットフォームと関わるようになってきているからである。
ECプラットフォームを利用することにより、オンラインから提供されるデータや予測技術により、実店舗においても効果的な販売促進など行うことができるようになったからである。
東南アジア地域で、大手小売店やメーカーなどを中心にECプラットフォームとの提携が進めば、東南アジアのEC市場は、今後、急速な発展を遂げるだろう。
記事参考:経済産業省『平成30年度電子商取引に関する市場調査』より