成長するモバイルコマース 3つの課題とは

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日本のスマートフォンの保有率は2017年にパソコンの保有率を上回り、昨年2018年にはパソコン(74%)をスマートフォンが79.2%とさらに差を広げつつある。インターネットの端末別利用率をみても、スマートフォンの利用率は59.5%、パソコン利用率48.2%と11.3ポイント上回っている。
今年11月11日、(株)JTB総合研究所より、スマートフォンが何に利用されているかなど、その利用実態などを調査した「スマートフォンの利用と旅行消費に関する調査(2019)」が公表された。
さらに、12月6日には、PayPal(ペイパル)より、「モバイルコマースに関するグローバル調査 2019年度版」が公表された。
それら内容によると、近年ではモバイルからのオンラインショッピングが世界的に拡大していること、日本は越境ECの利用が他国の比べて低いことなどが示されている。
今回は、スマートフォンの利用実態や、今後さらに成長するであろう、モバイルコマースの課題などについてまとめてみた。

スマーフォンでよく使う機能はチャットアプリ

(株)JTB総合研究所は、10月11日~10月17日に首都圏、名古屋圏、大阪圏に住む18歳から69歳までの男女1,000名を対象に「スマートフォンの利用と旅行消費に関する調査(2019)」に関するアンケート調査を行った。ここでは、その調査内容の一部を紹介する。
調査の概要としては、

  • SNS疲れは収束し、SNSを「みる専」が増えていること。
  • SNSは消費の情報源の役割がより強まる傾向があること。
  • スマートフォンアプリは“定番”だけを残し、ブラウザへと回帰の兆しがあること。
  • ポイント還元制度の導入でキャッシュレス決済が広がっていること。
  • スマートフォンでの旅行商品の予約・購入は「宿泊施設(33.0%)」が一人勝ちしていること

などがまとめられている。

スマートフォンの利用実態として、スマートフォンではどのような機能がよく使われているかを調べたものを見ると、よく使う機能のトップはメッセージアプリの84.9%、次に検索エンジンの80.9%、メール79.2%、電話74.1%などとなっている。
スマートフォンでよく使う機能としては、電話やメールはここ数年、減少し続けていたようだが、今年は増加しているようだ。
さらに、電話以外で前年より8ポイント以上の大きな伸びを見せたものは、「検索エンジン」、「カメラ」、「地図アプリ」、「ネットショッピング」などがあり、よく利用されているものは、生活に必要な基本的なアプリが重要視されているとしている。特に、スマートフォンによるネットショッピングについては、近年、拡大する傾向にあり、今年のブラックフライデー(アメリカ)では、スマートフォンからのショッピングの割合が拡大し、スマートフォンがEコマースの主流になる日も近いとしている。

スマートフォンでよく使われる機能

SNSは情報源のひとつとして利用されるようになった

SNSの内容を見ると、利用率については、LINE、YouTube、Twitter、Instagram、TikTok が昨年から増加し、Facebookは減少している。
また、昨年は「SNS疲れ」が増加する傾向が見られたが、今年は、SNSは見るだけで投稿しない「見る専」増加しているとしている。
SNSの利用で継続的な増加を示したものとして、「SNSで知った情報でいいと思ったものを購入した」、「SNSの投稿を見て、行ってみたいと思った場所に行った」があげられている。
特に、この傾向は若い年代で顕著で、ミレニアル世代、Z世代にあたる29歳以下の女性に多く5割以上となっている。
つまり、若い世代にとっては、「SNSは旅行や商品購入などの情報源」としても利用される傾向にあることを示している。

SNSの利用方法

ポイント還元制度の導入によりスマートフォン決済が拡大している

今年10月、消費税が10%に引き上げられた。
そして、消費増税の需要対策としてキャッシュレス決済によるポイント還元制度が実施されたことにより、スマートフォンを利用した決済が拡大した。
調査では、どのようなキャッシュレス決済が多く普及しているのかを調べている。
最も多かったのは「クレジットカード(70.6%)」で、次に、「QRコード(26.7%)」、「コンビニ払いや振り込み(23.0%)」となっており、全体の60.9%が何らかのスマートフォン決済を利用した経験があるとしており、日本でもキャッシュレス決済が普及しつつあることを裏付けた。

スマートフォン決済

利用が多かった決済方法は、「PayPay(30.0%)」が最も多く、次に「楽天ペイ(13.5%)」、「 LINE Pay(13.1%)」と続いており、昨年の調査で最も多かった 「Apple Pay(4.1%)」は10位に大きく後退している。

PayPalの「モバイルコマースに関するグローバル調査」

PayPal(ペイパル)は今年7月23日〜8月25日間、日本を含む11カ国(アメリカ、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、スペイン、インド、オーストラリア、ブラジル、メキシコ)において22,000名のコンシューマーと4,600のマーチャント(ビジネス)を対象とし「モバイルコマースに関するグローバル調査」を行った。
ここでは、その調査結果から、「日本のモバイルコマースの利用状況」、「日本の越境ECに利用状況」、「ソーシャルコマース(SNS経由によるショッピング)の利用状況」の日本における結果と、モバイルコマースにおける日本の事業者の課題を明らかにしてゆく。

ペイパル調査

モバイルコマースの利用率は7割以上

日本の消費者のモバイルコマースの利用は、73%とかなり高いことがわかる。
モバイルコマース市場は、世界的に拡大しており、Statistaの統計によると2018年には4,593億3,800万ドル(約55兆1,900億円)と2014年の統計から10倍以上の伸びを示しており、2019年は6,933億6000万ドル(約77兆1,260億円)とさらに成長するとされている。
日本は、調査対象の11カ国中、第4位で、他国の傾向としては、北米やヨーロッパの国々では依然としてPCが好まれているが、メキシコ、ブラジル、インドではモバイル端末利用がPCを上回っているようだ。

モバイルコマースの利用実態

【課題1】モバイルコマースに最適化されいない

モバイルコマースにおける日本の課題は、下の図にあるように、コンシュマーにおいてはモバイルコマースは多く利用されているが、モバイル向け最適化やアプリ対応の割合が49%(グローバル平均:63%)と11カ国中、最も低く、事業者はこの分野において、コンシューマーのニーズに応える必要があることを示している。
具体的な内容としては、モバイル対応したサイトデザイン、モバイル対応アプリ導入であり、大きなところでは、今後増えるであろうスマートフォン決済(PayPay、楽天ペイ、 LINE Payでの支払い)の対応である。

モバイルコマースの利用ランク図

モバイルコマース最適化

日本人の海外オンラインサイトの利用は世界的にも低い

海外のオンラインサイトの利用状況においては、ショッピングで国内サイト、海外サイトの両方を利用すると答えた日本のコンシューマーはわずか20%足らずだったようだ。
これは11カ国中、最も低い数値で、日本人は海外の越境EC利用は少ないことがわかった。
日本人は海外オンラインサイトに対して信頼度が低く、セキュリティに関する懸念が高いことなどがその理由とされている。
越境ECを利用する割合が高い国は、イタリア(76%)が最も高く、次にスペイン(75%)、オーストラリア(74%)と続いている。

海外オンラインサイトの利用率

【課題2】ECサイトが越境ECに対応していない

下の図は、国内EC事業者の海外顧客による売上構成比を示したものであるが、最も高かったのはインドの47%、次いでフランスの40%。日本は26%と最も低かった。これも11カ国中、最も低い値である。
これは、日本はまだ他国に比べ、越境ECでの売り上げが少ないことを示しており、インバウンドが増加する来年においては、海外顧客を取り込むことで、売り上げを拡大できることを示している。
モバイルコマースにおいては、日本のマーチャントは国内ばかりではなく、海外顧客にもっと目を向け、国内ECサイトを多言語化、つまり、越境ECとしてバージョンアップすべき時期である。
海外消費者に対応するためには、日本語ECサイトではなく、越境ECを多言語対応するだけではなく、海外配送や、決済対応などシステム改修が必要で、そこそこ費用が発生することも事実である。

遅れている多言語化

SNS経由のネットショッピングの需要が増加している

ペイパルの調査では、過去6カ月間にSNS経由でショッピングをしたと答えた日本のコンシューマーの割合は27%となっている。
SNS経由での利用が高い年代は、Z世代(18-24歳)で34%が最も高く、次にミレニアル世代(25-36歳)で32%となっており、JTB総合研究所の調査内容と一致する。
若い世代では、SNS経由で買い物をする割合が高く、今後、この世代をEコマースに取り込むためにはソーシャルコマースに対応することが必須と言える。
グローバル平均では、およそ3人に1人の回答者がソーシャルメディア経由で決済を行ったことがあると回答しており、さらに、世界のマーチャントの約3割が今後6カ月間にソーシャルコマースに対応すると述べている。

ソーシャルコマース

【課題3】ソーシャルコマース対応は時代の流れである

世界的には、ソーシャルコマースに注目が高まっており、日本でもソーシャルコマース対応は必須になりつつある。
つまり、SNSを運用しながら、Eコマースの商品ページに誘導するソーシャルコマースに早い段階で参入する必要があるということだ。
これまでの「ソーシャルコマース」の意味合いは、SNSで集客し、販売促進につなげるという概念だったが、最近では、様々なSNSプラットフォームを活用し、ECを組み合わせる施策のことを「ソーシャルコマース」と呼ぶようになっている。
これまで、SNSを運用し、SNSを集客として利用していたECサイトは、集客はできているわけだから、ソーシャルコマースとするには、SNSから商品ページに直接遷移し、商品購入できる仕組みを作っていくことが必要になる。
ペイパルの調査では、このソーシャルコマースに使用されているプラットフォームはLINEが1位。年代別では18歳~36歳が3割超と日本ではLINEが17%でが最も高かった。

まとめ

今回の資料を見る限り、近年、消費者のモバイルコマース利用したショッピングは増加しており、スマートフォンからの商品購入は世界的にも多くなっていると言える。
しかしながら、日本ではスマートフォン決済など、最適化が進んでいないということ。また、海外からの顧客に対して、越境ECによる売上げ向上のチャンスを逃していること。さらに、ソーシャルメディア経由でのショッピングが世界的に成長しつつあることから、ソーシャルコマースへの対応も行う必要があることなどが課題としてあげられる。
来年2020年から、日本でもスマートフォンは5Gが普及し、ECはさらにモバイルコマースにシフトすることは明らかである。
現況のECサイトが、世界の消費者がより快適にスマートフォンでショッピング体験ができる、最適化されたECサイトとなっているかどうか、今一度、検証する必要があるだろう。

参考:

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