クレジットカード大手マスターカードがまとめた、2020年のアメリカ年末商戦の小売売上高(10月11日─12月24日)は、前年比3%増加したと公表した。
新型コロナの影響でネット販売が特に好調で、前年比49%増加し、ネット購入は全体の19.7%に達した。
新型コロナ禍では、ネットで注文して店頭で受け取るという、「クリック&コレクト」に消費行動が変化したことが特徴となった。
そして、外出自粛、「巣ごもり生活」から、DIYを楽しむリフォーム商品や家具ECサイトからの購入が拡大したという。
今回はコロナ禍で躍進した、アメリカの家具ECサイト「ウェイフェア」について調べた。
2020年のアメリカの小売EC売り上げランキングシェアを見ると、1位にランクインしているのは、シェア38.7%を占めているAmazon、続いて2位にはアメリカの総合スーパーであるウォルマート、3位にebay、4位にアップル、5位に住宅や建設資材のザ・ホーム・デポ、そして、6位にランクインしているのが「ウェイフェア」である。
「ウェイフェア」は、家具や家庭用品を販売しているEC企業で日本ではあまり馴染みのない企業だ。
「ウェイフェア」のビジネスの特徴は、実店舗を持たないECのみの販売であり、
つまり、商品を製造しておらず、注文が入ってから商品を調達する「ドロップシッピングモデルで成功したEC企業である。
ウェイフェアは家具を中心とした家庭用品などを取り扱うネット通販会社である。
創業は2002年で、現在のCEOのニラージュ・シャーとその友人であるスティーブ・コーナインが起業した。
当初はニッチな270ものECを運営していたが、2011年にホームグッズを扱う総合ECサイトに脱皮。2014年には、ニューヨーク株式市場に上場した。
オンライン本社はマサチューセッツ州ボストンにある。
アメリカ全土にオフィス、倉庫があり、海外ではカナダ、ドイツ、アイルランド、英国にも進出している。
「ウェイフェア」は現在、家具などを中心にしたECプラットフォームであり、1万2000もの仕入れ先をネットワークし、1,400万点の商品アイテムを提供している。
「ウェイフェア」の商品を作らず、在庫も持たない家具ECに特化したプラットフォームというビジネスモデルは新鮮だ。
家具などのホームグッズは、アパレルや家電などのECサイトに比べると、オンラインの比率が低く、そこに目をつけ家具中心のオンラインプラットフォームというビジネスモデルを採用したところに成功の秘訣がある。
「ウェイフェア」は今や世界最大の家具・インテリア用品専門ECサイトとなっている。
コロナ禍の2020年第3四半期の業績は、売上高は38億4000万ドル(約3990億円)で、対前年同期比66.5%増と大きく成長した。
2020年は新型コロナの影響で、長引くホームスティ生活から、家具やホームグッズをネット販売するウェイフェアに注目が集まった。
実店舗の家具店舗が営業できないこと、そして、最大のライバルであるAmazonがコロナ禍で生活必需品を優先した配送に切り替えた点がウェイフェアの追い風となった。
コロナ禍が追い風となった「ウェイフェア」の「ドロップシッピングモデル」の特徴はどんなところになるのだろう。
まず、なんと言っても、1万2,000もの仕入れ先をネットワーク化することによる、1,400万点もの商品を販売しているところだろう。
そして、ECプラットフォームとして、マーケティングに特化し、消費者がネット注文するときの不安を解消する機能、つまり他社では真似できない様々な強みを持っているからである。その内容を次に整理した。
ECサイトでは、消費者は商品を手にとって見ることができない。
消費者が商品購入の決め手となるのは高画質で美しい写真である。しかし、そのような写真を写真家に依頼して一点一点撮影するには、ウェイフェアのように多くのネットワークと数百万点という商品を販売するプラットフォームで採用するには、莫大な費用が必要となる。
そこで、ウェイフェアではその家具など商品写真を3Dモデルで製作することにした。
3Dモデルデザインは従来の写真撮影費用の数分の一の費用しかかからないという。
通常、3Dモデル写真は陳腐なものになりがちだが、ウェイフェアの3Dモデルは、見ても違いがわからない程のクオリティが高い。
さらに3Dモデルのメリットは、商品を360度回転できること、消費者が家具を自宅に設置した場合どう見えるのかをシミュレーションできるARなどにも応用できるところである。
ビジュアルサーチ機能は、同社が2017年に開始したサービスである。
ビジュアルサーチとは画像による類似商品の提案機能である。
消費者がモバイルデバイスで撮影した写真やパソコンに保存した画像をウェイフェアのページやモバイルアプリにアップロードすれば、ウェイフェア上にある同じ商品、もしくは類似の商品を自動的に提案してもらえる機能である。
また、ECサイト内の「Discover Your Style」では、様々な家具、照明、雑貨などが置かれたシークエンスが用意され、シークエンスから商品タブをクリックし商品を購入することができる。(下の画像はダイニングルームの家具や家電、装飾品がセットされたもの)
大型家具は、配送に時間がかかり、また、家具が配送途中で破損したりするなどダメージを受けやすい。
ウェイフェアはこの大型商品に特化して、商品の受注から、配送までできるだけ内製化することにより、配送効率を高め、消費者に商品を速く、安全に配送している。
ウェイフェアのスマートフォンアプリで消費者が商品を選ぶ際、商品購入ページで「View in Room3D」という3Dビュー機能ボタンをタップすると、スマートフォンのカメラを通して自分の部屋を見ることができる。
「View in Room3D」では自分の部屋などの画面を見ながら、商品を置いて見たい位置を画面上でタップですると、閲覧していた商品購入ページの3Dモデルが、シミュレーションされる。
この機能を使うことにより、消費者は自分の買いたい商品が部屋にマッチするかどうかを確認することができる。AR機能は、より快適なユーザー購入体験を提供している。
ARとは、Augmented Realityの略で、スマホなどのアプリを通して、現実世界とバーチャル映像を重ねて表示するもので、近年、ECサイトでもその活用が広がっている。
ARがEC事業者に注目される理由は、ARがユーザーの購買単価や購買率(CVR)を劇的に向上させる可能性があることと、「実店舗」と「ECサイト」の双方に活用できるからである。
IKEAの例でその活用方法を見ていこう。
2020年6月にオープンした、IKEA原宿専用のアプリ「IKEA原宿アプリ」では、アプリを店内商品にかざすと、商品を自動判別して、商品名が表示される。
さらに、商品名をタップすると、商品詳細情報や類似商品を確認することができる。
それらの情報はARによる情報で、ユーザーは商品購入の意思決定が容易になる。
また、「ECサイト」では、「IKEA Place」アプリをインストールして使用すれば、自宅の部屋の中に実寸大の家具をシミュレーションすることができる。
ソファやアームチェア、コーヒーテーブル、収納ケースなど、IKEAのほぼすべての製品が掲載されたカタログから商品をタップしてスマートフォンをかざすだけで、家具の置かれた状態を確認し、気に入ればその場で購入も可能だ。
このようなAR機能は、購買率が改善されることが既に証明されている。
例えば、家具販売サイトである「Houzz」は自社のECにARを導入したところ、CVRが11倍もアップしたとレポートしている。
実店舗、ECサイトに活用できるARの導入は今後も増加することが予想される。
Amazonでも大型家具や部屋の装飾品は買うことができるが、「ウェイフェア」は他が真似できないテクノロジーを強みとして、このコロナ禍で大きく成長したプラットフォームだ。
今、アメリカやヨーロッパでは、コロナ禍による外出自粛で自由に外出し店舗で家具を見て、触って楽しく買い物ができない状況にある。
だが、「ウェイフェア」なら家に居ながらにして、多くの商品を見て、AR機能を使い、楽しく買うことができ、また、配送を内製化することで納品も他社と比べても速いという強みが成長の要因だろう。
参考
タグ: ECサイト, ECプラットフォーム, アメリカ, ネットショップ