新型コロナの感染拡大の影響で、小売業のサプライチェーンに変化が起こっている。
新型コロナ以前は、消費者は店舗に行き商品を購入する購買スタイルが常であったが、今や消費者行動は対面接触を回避するため、ネットショップによる購入へと変化しつつあり、ECでの売上は大きく拡大している。
中でも、生活者に密着しているスーパーのEC利用はこのコロナ禍で大きく増長、拡大した市場となった。
経済産業省の「商業動態統計」によると、2020年のスーパーの販売額は、前年比13.0%増の14兆8,105億円となっており、その中で自社物流網を活用したネットスーパー市場は約3000億円。2021年は3,297億円の拡大を見込んでいる。
今回は、日本の代表的なネットスーパーに加え、アメリカ、イギリス、中国のネットスーパー事情について俯瞰する。
日本のBtoC EC市場は年々拡大しており、2019年のEC市場は約20兆円、EC化率6.8%となっている。
EC市場の中で最も大きな割合を占めているのは、生活家電・PC・AV機器分野であり、EC化率も32.75%と高い。
EC市場の中で2019年の食品市場は、約1.8兆円でありEC化率は2.9%と低く、成長の余地が高い市場とされていた。
そして、2020年のコロナ禍による自粛により、ECによる食料品支出額(ネットスーパーの売上)は54.6%と急増した。
ここでは、日本の代表的なネットスーパーである「イオン」、「イトーヨーカドー」、「西友」、「ライフコーポレーション」の現況についてまとめた。
イオンリテールは、ネットスーパー事業の2020年3‐8月期(中間期)における売上高が前年同期比20%増だった(売り上げは非公開)。
また、コロナ禍で会員数は3倍に増加、受注も大きく増加した。
イオンは、ネットスーパー「おうちでイオン ネットスーパー」を展開している。
ネットスーパーはサービスによっては、配送地域が限定される場合もあるが、イオンのネットスーパー「おうちでイオン」は、全国規模で対応しているのが特徴である。
店舗ピックアップ対応店は200店舗にも及び、商品の配送は、自宅から最も近い店舗が対応店舗となっている。
イトーヨーカドーネットスーパーもイオン同様、ほぼ全国に配達エリアが網羅されている。
全国に116店舗を展開し、ネットスーパー売上高は397億円(2020年2月期)と公表されている。
イトーヨーカドーの場合、ネットスーパーのオリジナル商品を扱っているところが魅力でネットで注文し、店舗受け取りも可能である。
2020年6月より業界初となる「イトーヨーカドー ネットスーパーアプリ」を提供している。
2018年、楽天と業務提携した楽天西友ネットスーパーの売上は好調で2020年10月~12月前期比は39.9%の増であった。
西友ネットスーパーは、126店の実店舗を拠点としたネットサービスを展開している。
また、2020年11月、楽天とアメリカ投資会社が出資したことにより、ネットとリアルを融合したDXを加速している。
西友ネットスーパーは、楽天と提携しているため楽天ポイントが貯まること(還元率1%)と商品の種類が多いところである。
ライフのネットスーパーは、実店舗から直接配達するシステムで、現在61店舗を展開している。
エリアは、関東圏の東京や神奈川、埼玉と関西圏の大阪や兵庫、京都などの一部でのみ利用可能。
2019年の売上は30億円、2020年前期は前年同期比の50%増加となっている。
また、2020年10月には、Amazon.co.jp上にライフコーポレーションのストアをオープンした。また、2021年3月よりライフネットスーパー専用アプリの提供を開始した。
アメリカでも日本と同様、新型コロナ禍で将来性はあるがニッチとされていた、食品や日用品をネット購入するというニューノーマルが一気に普及した。
アメリカ政府による強い外出規制は、消費者にとってネットスーパーを利用せざるを得ない状況となった。
こうした状況下で、「Amazon」、「Walmart」、「Target」、「Instacart」などは、ネットを介した食品や日用品などの提供を加速させた。
ここでは、Amazonの「Amazon Fresh」とWalmartの「Walmart Grocery」を取り上げた。
2020年8月、Amazonはオンライン上で運営する食品スーパー「Amazon Flash」リアル店舗をロスアンゼルスにオープンした。
このAmazon初のスーパーとして店舗は、レジ精算不要のショッピングカート「ダッシュカート」を導入した初の店舗である。
「Amazon Flash」のバックヤードには小型ロボット物流のマイクロ・フルフィルメントセンター(Micro-Fulfillment Center:MFC)が併設され、宅配サービスやカーブサイド・ピックアップ(ネットで注文し店舗で受取る)に対応している。
Amazon Flashの品揃えは一般的な食品スーパーに、アマゾン傘下のホールフーズ・マーケットのプライベートブランド「365」やアマゾンのプライベートブランドも扱っている。
また、2019年10月にはAmazonプライム会員はAmazon Flashでの配送料を20都市で無料となった。
米調査会社Second Measureの調査結果によると、現在、「Walmart Grocery」はアメリカで最も多く利用されているネットスーパーである。
Walmartはアメリカ国内の約4700店舗のうち約2700店舗で、最短当日に商品を届けるネットスーパーを展開しており、Walmart+(プラス)会員は配送料が無料となっている。
商品点数は約16万品目、最低注文金額は35ドルとなっている。
Walmartは現在、既存の店舗網を活用した店舗起点型のネットワーク構築を加速しており、2019年のIT・ECへの投資は68%増、オンライン販売は前年同期比79%増(2020年四半期8~10月期)であった。
イギリスのネットスーパーの取組みは、1990年代から開始され、イギリスの小売の最大手である「TESCO」が早い段階からネットワーク構築を始めている。
2000年代前半にはネットで注文を受け、店舗でピッキングするビジネスに取り組んでいる。
イギリスはネット先進国であるアメリカを凌ぎ、世界で最もネットスーパーの競争が激しい市場となっている。
イギリスのネットスーパーシェアは、最も高い3割を占めている。
現在は「TESCO(テスコ)」、「Sainbury’s(セインズベリーズ)」、「WM Morrisons(WMモリソン)」、「Ocado(オカド)」といった大手スーパーの多くが、生鮮品のネット宅配サービスを行っている。
ここでは、「TESCO(テスコ)」と最近、勢力を増している「Ocado(オカド)」についてまとめた。
イギリス最大のスーパーマーケットチェーンのTESCOは、ネットスーパー事業でも他を大きく引き離して首位である。
TESCOはネットスーパー市場の32%のシェアを占め、2位のセインズベリーズの2倍以上の売上高を記録している。
現在、約3,500店舗を有し、ネットワーク専用のフルフィルメントセンター(FC)は6箇所、2021年には10箇所に増築予定である。
この、6カ所のネットスーパー専用FCと3,500店の店舗ネットワークを生かし、サービス提供地域はイギリスの全世帯の99.7%に到達している。
Tesco.comのサイト上では、食品・日用品だけでなく、電化製品、書籍、ブロードバンドネットワーク、生損保などTescoの幅広い製品やサービスが提供されている。
2000年に設立した「OCADO」は実店舗を持たない、ネットスーパー専業のビジネスを展開しており、オンライン特化型としては世界最大級のネットスーパーに成長しているのが「Ocado」である。
Ocadoの配送拠点は19箇所、アイテム数5万8千。最低注文額40ポンドで2019年売上は17億5,660万ポンド(約2,500億円)となっている。
特徴は、ネットスーパーの運営ソリューションとなるスマートプラットフォーム(Ocado Smart Platform)を開発導入し、受注システム、商品管理、ロジスティクスなど、ネットスーパーの運営にかかる様々な側面においてAI技術や最新のロボティクス技術を最大限に取入れ、運営コストの縮小に成功している点である。
また、小売実店舗によるスペースの制約がないため、取り扱う商品数は典型的なスーパーマーケットよりもはるかに多い49,000種類にものぼる。
国内外の主要メーカー製品はもちろん、自社ブランド、高級ブランドや各国食材、さらに、日本の食材専用ページも用意されているほど、充実した品揃えとなっている。
また、日本のイオングループはこのOcadoと2019年に国内における独占パートナーシップ契約を結び、最新設備を導入した配送センター(オンライン大型自動倉庫)を2023年までに稼働させる予定である。
新型コロナ対策として、外出禁止が徹底されていた中国。中国の外出禁止は徹底しており、マンションの敷地からの出入りまで禁止されていたようだ。
その中で食料や日用品の購入に利用されたのが、EC、つまり、ネットスーパーである。
中国のネットスーパーは2010年半ばより、ITプラットフォーマーの登場とネットによるキャッシュレス決済が浸透したことにより、アリババやテンセントなどの企業、さらに新興系企業が主体となり発展している。
中国の主なネットスーパーサービスは、「盒馬鮮生」、「超級物種」、「美団買菜」、「毎日優鮮」、「叮咚買菜」、「朴朴超市」、「「永輝超市」など何社もある。
ここでは、「盒馬鮮生(ファーマーションシェン)」と「超級物種(チャオジーウージョン)」を取り上げる。
アリババ傘下の生鮮スーパー「盒馬鮮生」は2016年から運用が開始され、2020年には中国国内に230店舗を有するまでになった。配送は30分圏内で配送料は無料というから驚きである。
盒馬鮮生は、実店舗(生鮮スーパー)でありながら、物流倉庫機能を複合しており、配送力に優れ、ECと連携を図った次世代型OMO(Online Merges with Offline、オンラインとオフラインの融合)店舗として注目されている。
店内の天井にはピックアップした商品が移動するレーンが設置され、商品がピックアップされるとバックヤードに運ばれ配送されるシステムである。
テンセントが出資している「超級物種」は、2017年から運用を開始、店舗数は80店だが急速に拡大している。アリババの盒馬鲜生とライバルであるが、実店舗+物流倉庫というOMO形式は同じである。
食料品など注文は、半径3km以内に30分で配送され、配送網はテンセントを活かした自社配送が特徴である。
2018年8月には44店舗目となる広州店において、初のドローンによるデリバリー店舗がオープンした。
コロナ禍において世界のネットスーパーは何処も増収、増益であった。
ネットスーパーは現物を実際に手にとって、品質を確認できないことがネックとなって、これまで、そのEC成長率は決して高くはなかった。
そして、今回のコロナ禍でネットスーパーを活用せざるを得ない状況となった。
ネットスーパーを実際に利用してみると、商品の品質も良く配送も早く、これまでのネガティブな要因は無くなり、ネットスーパーは、安心安全であるという利用価値が高まった。
アフターコロナで更に、このネットスーパーをより浸透させるには、ECサイトのAIによる食品や日用品の提案力、例えば、季節にあった食品提案や毎日の献立の提案など、実際に店舗で買い物をするより、ネットスーパーならではの便利な機能の追加であったり、イギリスの「Ocado」のような受注からサプライチェーンまで一貫したAIとロボットを活用したネットスーパーシステムの構築にあるだろう。
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