日経新聞によると、中国の7~9月の国内総生産(GDP)は、物価の変動を調整した実質で前年同期比4.9%の増加となったが、4~6月の7.9%増加から減速したとしている。
また、国慶節(建国記念日)を祝う10月1から7日までの大型連休の観光収入は前年比約5%減少したとし、パンデミック前の2019年と比較しても、6割弱と個人消費面でも停滞している。
この中国の景気停滞感の中、新しい時代の消費や購買を象徴するような、中国発のファッション系越境ECアプリ「SHEIN(シーイン)」の存在感が増している。
日本にはまだ、定着感はないが、メイン市場となっているアメリカのZ世代では大きなトレンドとなっている。
アメリカのアプリ調査会社App AnnieとSensor Towerのデータによると5月17日には「IOSプラットフォームにおける「SHEIN」のアプリのダウンロード数」でアマゾンを抜き1位のECアプリとなった。
今回は、この中国のファッションEC「SHEIN(※以降シーイン)」の世界各国で好調な理由、さらにシーインが行ったマーケティング戦略を紹介する。
シーインは2020年12月に日本でもサービスを開始したが、日本ではまだ、知名度は高くない。
シーインとは、実店舗を構えず、オンラインのみで販売するBtoC(越境EC)で、世界220カ国で展開し、2021年5月にはアメリカで最もダウンロードされたファストファッションブランドである。
メイン市場はアメリカでターゲットはZ世代と言われるデジタル・ネイティブな若者である。
シーインは今や飛ぶ鳥を落とす勢いで、世界のファッションブランドトップテンにも入っている。
シーインはもともとはWEBマーケティング事業を行っていたが、2012年に「シーインサイド」ブランドを立ち上げ、EC販売をスタートさせた。
設立当初から、越境ECで世界市場をターゲットに販売し、2014年にはブランド名を「SHEIN」に改めた。
事業拡大の要因は色々あるが、もともとウェブマーケティングに強いというところ大きい。
時代はマーケティングである。SEO最適化、リスティング広告、SNSによる拡散など、あらゆる施策によるUGC(ユーザー生成コンテンツ)が、爆買を加速させた。
爆買されるシーインの強みとは一体どこにあるのだろう。WEBサイトを見ると、新作を含めた商品数の多さ、着てみたくなるようなビジュアル、そして、価格の手頃さが目立つ。
ここではシーインの強みを3つ取り上げた。
こんな価格で大丈夫?と疑うような1000円〜2000円という低価格帯がズラリ。さらに、そこから10%~20%の割引が適用され、越境ECでありながら、配送料も安く、配送日数も1週間以内である。また、商品販売ページで商品到着予定日、配送料の明記など、ユーザーが気になる情報も掲載している。
シーインの強みの一つは、この低価格商品と新作数量の圧倒的な豊富さにある。
新商品は一週間に10万点というから驚きである。
あの「ZARA」でさえ、年間新作総数は2万5000点程度であることと比較すると、シーインの生産サイクルの凄さが分かる。
「早くて安い」がファストファッション。その代名詞だった「ZARA」もシーインのサイクルの早さにはひれ伏すしかない。
ZARAの場合、製造から販売、ユーザーの手元に商品が届くまでに、3~4週間かかると言われている。
しかし、シーインでは最短で7日間でユーザーの手元に届く。
これは、シーインの中国国内の小ロットにも対応できるサプライチェーンのシステムマネジメントによるものだ。
シーインのサプライチェーン統合の生産体制が、目まぐるしくトレンドが変わる業界の流れに対応し、Z世代に共感を得ているのだろう。
消費者はどんなファッションデザインを好むのか、シーインではAIを使用し、分析を行っている。
各国の越境ECサイトから売れ筋商品情報を取得し、色、形、パターン等を解析している。
また、「Google Trends Finder」を活用して、ユーザーによく検索されるアパレル関連の用語を分析し、これから流行りそうな色、生地、デザインをAIを使って予測している。
AIによる分析以外にも、人的リソースも活用し、新作ファッションショーなどファッショントレンド情報を収集している。
シーインの強みは企画、デザインにおいてAIと人による分析を行い、消費者トレンドを把握したデザインを短期サイクルで製品化しているところである。
新着のトレンド商品がたくさんあり、しかも安く買えることは、常に流行に敏感な10代のニーズに合致している。
そして、その10代購入者がSNS上で動画やコメントを発信することにより、ますます、同世代の感覚を刺激し、購買が拡大している。
次にシーインのマーケティング手法をまとめた。
シーインはもともとが、WEBマーケティング事業からECサイトでの商品販売をスタートした企業である。
WEBマーケティングとして、重要なSEOやリスティング広告、SNS広告などを積極的に実施している。
Similarwebのデータによると、広告経由でシーインののWEBサイトに流入したユーザーは全体の48.61%を占めている。
ここではシーインのマーケティング手法についてまとめた。
中国では、インフルエンサーマーケティングがブランド価値を高めるために行われているが、シーインではインフルエンサーをKOLではなく、親近感のあるKOC(Key Opinion Consumer/ケーオーシー)を起用したところに特徴がある。
消費者目線で「商品のここが良い。またはここが悪い」などの体験レビューやコンテンツがSNSプラットフォームから大量に配信されている。
シーインのWEBサイトには「アフィリエイトプログラム」が用意されている。
これは、アフィリエイターがシーインの商品紹介のコンテンツを投稿し、宣伝することでコミッション(報奨金)をもらえるというものだ。
手法としては、まず、アフィリエターにシーインから商品を購入してもらい、さらに、その購入した商品をアフィリエター自身が宣伝することで、その宣伝費としてシーインより報酬を受け取るというものだ。
これは、アフィリエイターとシーイン双方にとって、Win−Winの関係にも繋がり、販売チャネルの拡大にもなる良いアイデアだ。
2020年、シーインはライブコマースを何度も行っている。
大きなイベントとしては2020年と2021年5月2日に行ったバーチャルイベント「SHEIN Together Fest」である。
2021年の「SHEIN Together Fest」のゲストアーティストに、ニック・ジョナス、スティーブ・アオキ、マレン・モリスらが起用され、ライブは世界中で180万人を超える視聴者を獲得し、1日にして大量のユーザーの獲得した。
上記の他にも、シーインはインスタグラムなどSNSを活用しブランド知名度を拡大させている。
SNSでは複数のアカウントを開設し、アカウント同士で訪問者を誘導させたり、各国別、各ジャンル別にインスタグラムのサブアカウントを設置し、新商品の情報を次々に配信している。
シーインの商品を売るためのこれら戦略は、これからのブランド戦略の参考になるものばかりである。
商品は10代の女性というターゲットに絞りこみ、「安く早く流行のファッションを着たい」という欲求を十分満たす良質のファッションを販売している。
さらに、ブランドを選んでももらう戦略には、SNS、アフィリエイト広告、インフルエンサーをフル活用して、消費者にブランドを伝える投資、努力を惜しまない。
この消費者にブランドを選んでもらうための努力こそ、現代においてビジネスを拡大していくためには、最も重要である。
良い商品、サービスで品質が高いということはもちろん大切だが、その高い品質の商品・サービスを選んでもらう努力を欠いてしまうと、その価値が世の中に出る以前に、埋もれてしまうだろう。
良いものをだけを作る時代ではなく、良い商品を世の中に伝える・選ばれる努力こそが重要なのである。
参考: