2021年1月ジェトロが公表した、「2020年度 日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」によると、越境ECに取り組む日本企業の販売国・地域のトップは、中国、次いでアメリカ、台湾、香港、シンガポールとなっている。
この中で香港は、EC市場規模は小さいが、シンガポール同様、アジアのハブとして、欧米からの投資が流入し、早い段階からEコマースは発展、普及している。
また、香港は親日国としても知られ、2019年の訪日数は229万人と全香港人口の約30%が訪日したことになる。
越境ECは中国、アメリカばかりではなく、香港や台湾などの中華圏に属する地域も越境ビジネスにおいては、視野に入れ展開すべきだろう。
今回は、この香港のEC市場、代表的なECモール、さらに越境ECを開始する際の留意点などを整理した。
香港は中国の一部であるが、民主化された国家であり、インターネットを厳しく制限されている中国と違い、サイトの開設に現地法人やICPライセンス登録がなくても現地サーバを利用することができる。
香港の面積は、1,108平方キロ(東京都の約半分)、人口は752万人(2021年1月)である。
人口の殆どは都市部に住んでおり、インターネット普及率は92.0%(2021年1月)で、SNSユーザーはは644万人(総人口の85.6%)となっている。
インターネット回線速度ランキングではシンガポールに次ぐ2位の161.4MBPSとなっており、インターネットのインフラが高水準で整っている。
参考:https://datareportal.com/reports/digital-2021-hong-kong?rq=hong%20kong%202021
香港は、富裕層が多い国として有名である。
「グローバル・ウェルス・レポート(2019年)」の「成人一人あたりの資産額ランキング」を見ると、トップはスイスの56万4,650ドル(約6,123万円)、次に香港の48万9,260ドル(約5,305万円)、3位にアメリカの43万2,370ドル(約4,688万円)と続いている。
日本はランキングしておらず、日本の成人1人当たりの平均資産額は23万8,104ドル(約2,580万円)と、香港成人の約半分となっており、世帯あたりの収入が日本より随分高いことがわかる。
このようにに富裕層が多い香港は、さぞネットショップの利用も多いと考えられるところであるが、オンライン利用は少ないのが特徴である。
インターネットも発達し、スマホの保有率も高いが、Eコマース利用に関してはそれほど活発では無い。
その最大の理由は、香港では人口のほとんどが中心街から30分圏内の場所に住んでいるため、わざわざネットショップを利用しなくても便利に買い物ができるためである。
さらに、短区間にも関わらず配送料が高く、オンラインより、実店舗での購入の方が効率が良いため、ECの利用は低い。
2016年の香港のECを通じた小売販売額は137億香港ドル(約1,986億円)となっており、小売額全体に占めるECの割合は3.1%と、当時の中国のEC化率13.8%と比べてもかなり低い。
しかし、2020年の民主化デモ、新型コロナの影響で、小売業は厳しい状況に置かれ、香港消費者は多くの時間をオンラインショッピングに費やした。
香港最大のEC企業「HKTV mall」のデータによると、コロナの感染爆発以来、サイトへの一日当たりのアクセス端末数は40万以上と、コロナ以前に比べて倍増した。
2020年、実店舗は大きな打撃を受けたが、香港では急速に消費活動がオンラインにシフトしている。
香港を代表するECモールは、「HKTV MALL」、「天猫国際(Tmall)」、「Yahoo雅虎香港(Yahoo!香港)」などであるが、ここでは「HKTV MALL」を取り上げる。
「HKTV MALL」は香港の人口の半分以上である450万人(2017年4月時点)が登録している巨大ECサイトで、購買年齢層は25~44歳が6割を占める。
日本のAmazon、楽天に匹敵する香港のメインECプレイヤーである。
商品カテゴリーは、スーパーマーケット取扱商品(食品、掃除用品、シャンプーなど)が全体の約8割。
その他、Eクーポン、ファッション・美容関連商品と家具・電気製品がおのおの約1割で構成されている。
「HKTV MALL」で取り扱っている商品アイテム数は15万点超(2017年8月時点)で、香港、日本、韓国などの約1,300社が出店登録、もしくは同社と卸取引を行っている。
越境ECを行う場合は、この「HKTV MALL」に出店するのが良いだろう。
比較的高価で特徴的な日本の商品、または、地域限定的な商品などは売れる可能性が高い。
香港は越境EC市場として魅力的な存在である。
なぜなら、下の図にあるように越境ECを世界一利用している国(地域)であり、国内ECショップで商品を購入することと同時に、越境ECの利用に抵抗がないからである。
ここでは、香港向け越境ECにおける留意点をまとめた。
香港のEC決済方法は、クレジットカード(VISA、MasterCard、American Express)、
コンビニ決済、電子マネー(オクトパスカード)、第三者決済(ペイパル)などの利用率が高い。
また、物流においては新型コロナの影響で一時期、EMS(国際郵便)、クールEMSなど大幅に遅延していたが、現況は安定稼働している。
また、個人情報移転の制限については、個人データ(プライバシー)条例(第486章)があり、香港域外への個人情報の持ち出しを禁止する規定はあるが、2017年8月末時点では未施行となっている。
輸入規制に関しては、化粧品、医薬品、玩具、食品についてライセンスなど規制がある。
また、香港はフリーポート(自由港)のため、殆どの品目に関してはゼロ関税であるが、酒、たばこ、炭化水素油、メチルアルコールには物品税が課税される。
これまで、解説したように香港で越境ECを行うメリットは以下のようになるだろう。
などである。
香港向け越境EC開設のメリットはさまざまあるが、日本の商品の多くは香港市場に流通しており、単に「日本製だから」という理由だけで商品が売れるということはない。
越境EC販売する際の商品の強みは、「日本製だから」ではなく、「日本でしか買うことができない限定品」や「訪日の際、日本で購入して気に入った消耗品」ということがポイントである。
具体的には、日本のアニメのフィギュアホビー商品や江戸切子・南部鉄瓶など地域特産品。
インバウンドで人気のあった、医薬品としてEVE・新ビオフェルミンや化粧品の資生堂・SK-II・ミノンなど日本でしか購入できない製品である。
日本のお菓子も香港では人気がある。カルビーの「じゃがポックル」、コンビニ限定の抹茶チョコレートなど、地域限定品や期間限定品など、限定品は香港では売れ筋商品である。
ジェトロの香港に関する最新のレポートによると、香港では今、模倣品の取り締まりを強化しているとある。
新型コロナによりステイホームが増える中、ECサイトの利用が増加し、EC上の模倣品対策に一層注力しているという。
越境ECにおいては、香港税関にて水際対策として、ゼロ・トレランス(不寛容)方針掲げて対策を強化している。
また、香港法では偽造商標や既存商標と酷似する商標などを用いた場合、最高で50万香港ドルの罰金または懲役5年の刑が科されるとある。
越境ECで日本の製品を販売する場合は、商標権の取得を実施し、100%正規品保証を明記し、模倣品問題に対する自社製品の姿勢を示し、香港市場進出を積極的に進めることが重要である。
香港におけるEC市場は新型コロナによるステイホームから、ネットショップ利用が拡大し、香港のEC需要の潜在力が表面化している。
そして、コロナ禍によるインバウンドが壊滅状態になる中、訪日中に購入した日本商品を越境ECで購入する消費者も増加している。
今のこの時期こそ、越境ECを展開する環境が整っている香港進出を行うべきチャンスではないだろうか。