中国電子商取引法で越境EC事業者が気をつけるべきポイント

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中国では人口が13億人を超え、インターネット利用者も8億人を超えるまでになっている。 そして、中国ではインターネット人口の増加とともに、Eコマースユーザーも必然的に増加し、急成長を遂げている。
しかし、中国は急激なEコマースの増大は数々の問題を生んでいるのも事実だ。 例えば、ECによる偽物品の販売の増加や配送不備による商品破損の実態、個人バイヤーの無許可の営業行為、ECプラットフォーム事業者と当該プラットフォームに出店する事業者の法的関係性など、法的整備の必要が叫ばれていた。
そこで、中国政府は2013年に「中国電子商取引法」に着手し、昨年2018年8月31日には「中国電子商取引法」が成立し、今年2019年1月1日より施行された。1月からこの法律内容は施行され、4月からは徐々に法律に遵守しない企業の取り締まりを強化している。
この「中国電子商取引法」は中国EC事業者を対象としたものだが、中国で現地ECを運営している日本の事業者や中国のECプラットフォームに出店している日本の事業者にも適用される。
今回は、この「中国電子商取引法」の条項で日本企業が注意しなければならない点を整理した。

中国電子商取引法(中国EC法)の適用を受ける事業者は?

中国電子商取引法では、「EC事業者」をEC取引を行う法人、団体または個人を総称して「EC事業者」とし、全ての「EC事業者」が対象となるとしている。
中国電子商取引法の条項は第1条から第87条まであり、その中で全てのEC事業者が共通に遵守されなければならない項目は第10条から26条である。
下記の図は中国電子商取引法が適用される事業者と関連する条項を図にしたものだ。
まず、「EC事業者」として該当する事業者は、

  1. ECプラットフォーム事業者
  2. ECプラットフォームに出店する事業者(EC出店事業者)
  3. 自社または個人サイト等で商品販売を行う者(自社サイト事業者)

の3事業者で、中国でEC事業を行う全ての事業者にこの法律は適用され、違反すると罰則、罰金が課せられる。
また、この法律は、中国国内におけるEC取引関係者に適用されるため、中国国外で中国向けECサイトを運用しているEC事業者には適用されない。
つまり、日本企業でこの法律に適用されるのは、「中国のECプラットフォームに出店している事業者」と「中国現地でEC事業を運営している事業者」である。図01

中国越境EC事業者が条項で気をつけるべき点

下記では「中国のプラットフォームに出店している日本企業」と「現地中国でEC事業を運営している事業者」が「中国電子商取引法」での遵守しなければならない条項内容をまとめた。

(1)中国法人の登録設立が大前提

「(10条~12条)の主体に関する登記、納税の義務、関連する行政許可を取得すること。」
中国のTmallやJD.comなどのECプラットフォームに出店する場合、または、中国現地でECサイトを構築し販売する場合は、大前提として、中国法人を設立し、しかるべき行政許可を取得し、納税することが大前提となる。

(2)中国営業許可証などの情報をサイトに明示

「(15条)ウェブサイトのトップページの分かりやすい位置に、営業許可証や行政許可証等の情報を継続的に表示すること。」
EC事業者は、ECサイトのトップページの分かりやすい位置に、営業許可証や行政許可情報等の情報を継続的に表示しなければならない。
EC事業者がこの義務に違反した場合、市場監督管理部門から期限付きの是正命令を受け、また、1万人民元以下の過料が科される可能性がある。

(3)虚偽宣伝、評価の捏造などの禁止

「(17条)商品及びサービスにかかる全面的な情報を開示し、ユーザーの知る権利や洗濯する権利を保障すること。
また、架空の取引やユーザー評価の捏造等によって虚偽または誤解を与えるような商業宣伝や詐欺、ユーザーを誤解する行為の禁止。」
EC事業者は、商品やッサービスに関する情報は正確に真実な内容を表記しなければならない。
つまり、ユーザーの知る権利や選択する権利が保障され、架空の取引や架空のユーザー評価を用いて、ユーザーの知る権利を侵害してならない。
したがって、中国では自社の商品やブランドが人気があるよに見せるために、EC事業者が架空の口コミやユーザー評価を高く見せたりする虚偽行為は行なってはならない。

この点に関し、中国電子商取引法施行後は、中国当局の監視および行政執行が強化されることが見込まれ、中国でEC取引を行う日系企業には、より徹底した情報管理が求められるだろう。

(4)抱き合わせ販売は注意喚起しなければならない

「(19条)抱き合わせの販売を行う場合は、分かりやすい方法でユーザーに注意喚起しなければならないこと。」
抱き合わせ販売とは、例えば、宿泊や航空券の予約サイトで宿泊予約を行いたいときに、食事付、送迎付、保険付などが最初から含まれている場合、それらが、初期設定されている販売方法を指す。
このような商品やサービスを販売する場合は、必ずユーザーに対して注意喚起を行うことが義務づけられている。
また、前途のような初期設定での抱き合わせ販売を行うことは禁止されている。

(5)個人情報の取扱い

「(23条)ユーザーに対して個人情報の検索、更新、削除および登録取り消しの方法と手順を明示すること。」
「(24条)政府の関連する主管部門から、法令に基づいて関連するECデータの情報を提供するような要請があった場合には、同要請に応じること。」
EC出店事業者、EC事業者は中国人の個人情報の保護に関する法令の遵守しなければならない。
ユーザー情報の閲覧、修正、削除およびユーザーの登録抹消の手続きについて不合理な条件を設定することを禁じている。
また、法令に基づき中国当局から情報開示を求められた場合、それに応じなければならない。違反した場合は、10,000元以下の科せられる。

(6)越境EC事業者に対して

「(25条)越境ECを行う場合は、輸出入監督管理等の関連法律・法規を遵守すること。」
上記で示されている、(25条)については、「越境EC輸入販売政策」にある”越境ECにおける通関証明書(通関単)提出等の実施を猶予する措置は2019年1月以降も継続される”こととなったので、この条項は、新たな規制を加えるものではないだろう。
しかし、今後法令が改定など行われる可能性が高いので、中国当局の動向を注視する必要があるだろう。

中国の直送モデルによる、越境EC事業者の注意点

下記、表は中国と「一般貿易で取引を行う場合」、「保全区に貨物を配送し、中国消費者に発送する場合」、「海外から直接中国消費者に商品を発送する場合」、「ソーシャルバイヤーが直接、海外製品を購入し、中国消費者に発送する場合」にかかるライセンスや税関手続きなど「中国の有赞のチェンさん」がまとめた独自資料である。

図02

直送モデルにより配送する越境EC事業者の注意点(上記表の黄色枠内部分を翻訳)

■ライセンス、出願、登録などの事前登録手続き

企業と商品と海外企業に関わる商品を税関に事前登録手続きが必要。

■海外企業の義務

外国企業は貨物所有者として、または国内企業は事業者として行動することが義務付けられる。

■商品の検査

商品の検査は必要なし

■通関や注文、支払い、物流などの電子データ

電子データは必要有り

■通関手続きおよび消費者の識別情報

商品を注文した人の中国人の名前と中国人ID番号が必要。 識別情報が所管官庁またはその承認によって証明されていない場合、注文者と支払人は同一人物である必要がある。

■適用製品の範囲

国税局の発行する「ポジティブリスト」*内の貨物である。

■課税標準

越境電子商取引の総合税(商品は毎回課税される:免税、輸入リンク付加価値税、消費税は法定税の70%が徴収される。)

■注文金額の上限

単一の取引限度は5,000元(RMB)以内、個々の年間取引限度は26000元(RMB)以内。

■メリット

  1. 事前手続きは簡単です。
  2. 商品は海外にある。国内在庫リスクが低いです。
  3.  CCモードと比較して、通関は安定しており、時間効率は速い。
  4. 商品検査は不要です。

■デメリット

  1. 商品は「ポジティブリスト」内の商品であること。
  2. 毎回の取引ごとに納税が必要。
  3. 取引の制限(金額)がある。
  4. 電子商取引のオンラインショッピング及び、小売にのみ適用され、オフラインチャネルを介して商品を集めることは許可されていない。

*ポジティブリストとは国税局により「国境を越えた電子商取引の小売輸入のリスト」に掲載されている商品である。《跨境电子商务零售进口商品清单(正面清单)(2018年版)》 参考:http://www.chinatax.gov.cn/n810341/n810755/c3929521/content.html

まとめ

「中国電子商取引法」は、電子商取引事業者が市場実体の登録を経て、税金を支払うことを要求している。
それは、中国のサーバーを利用しEコマースを行なっている海外企業、中国のECプラットフォームを利用し、Eコマースを行なっている企業、さらに海外商品を中国人消費者から、注文を受け、発送している個人的中国人に対し、中国当局に登録し、税金の支払いを課し、個人情報の保護などの遵守を命じているのである。

参考:

(1)「中国電子商取引法」全文日本語訳 

(2)中国電子商取引法の概要 弁護士 田中 雅敏、森 進吾

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