EU(欧州連合)は2018年5月25日、「GDPR」という”個人情報に関する法律”を施行したばかりだが、9月12日には、著作権指令に関する修正指令案を可決、承認した。
この内容は最終的には2019年1月の投票により、成立される方向だが、「GDPR」につづき、「著作権」に関しても新たな内容が組み込まれ、成立する見込みである。
この「改正著作権法」は成立すれば、「GDPR」と同じようにEU圏外の国にも大きく広がる可能性がある。
今回はこのEUが施行しようとしている「改正著作権法」について見ていこう。
※「GDPR」の詳しい内容についてはこちらの 『越境ECにも影響するEUの「GDPR」対策行ってますか?』ブログで
9月12日に欧州議会は、「著作権新指令案(Copyright Directive)」について投票を行い、賛成438、反対226、棄権39で可決した。
この可決内容については賛成派、反対派と大きく物議をかもしており、WebサービスやWebサイトの運用を行っている際に影響を受けそうな項目は2点である。
「第11条」と「第13条」の改正がその内容だが、以下に整理した。
「第11条」にある通称「リンク税」と呼ばれる内容は、Webサイト上にリンクをはって外部サイトの内容を表示する場合、権利元へライセンス料を支払う義務を定めたものだ。
この「リンク税」は、グーグルニュース、Yahooニュースなどの大手ニュースキュレーションサービスが、報道機関の記事に対してリンクをはった場合、記事の出所元(報道機関など)はそのリンクに対し、そのニュースサイトに対価(ライセンス料)を求めることができるというものだ。
また、その際の対価(ライセンス料)については、ニュースプラットフォームと権利元(報道機関など)との契約で定めることとしている。
この「リンク税」は、「ジャーナリストに適切な報酬を与える」ことを目的としており、報道機関に適切なライセンス料の支払いを行うことを義務付けるものである。
また、誤解がないように、通常のハイパーリンクや検索エンジンのリンティングは対象外とされ、規制となる対象規模も、中小のプラットフォームは対象外とするなど、結果的に、この「第11条」はグーグルやフェイスブックなど米IT企業が狙い撃ちにされたとの見方もある。
「第13条」はYouTubeなどをイメージするとわかりやすいが、YouTubeに投稿される映像のなどの権利(著作権)については、映像製作者でない場合は、規定の映像使用料を権利元に支払い、了承を得た上であれば、映像をアップロードできるものである。
しかし、現状はそうはなってはいない。
YouTubeの場合はアップされた動画について、著作権侵害の訴えがあった場合にのみ、動画を削除するという現状である。
基本的には動画投稿者の良心に任せられ、放置状態といった状態なのである。 この状態に異を唱えたのが、音楽アーティストや映像作家である。
元ビートルズのポール・マッカートニー氏らも、音楽や動画がネット上で無断配信され、アーティスト側の利益が奪われているとして、規制強化を求めていたところであった。
「第13条」はこの著作権の管理をプラットフォームの運営者が、コンテンツの著作権に違反していないかを監視することを義務づけたものだ。
著作権の管理は投稿するユーザーではなく、投稿サイトを運営するネット企業に責任があるとするものである。 つまり、「第13条」は、著作権のチェックは、投稿する側ではなく、ホストするプラットフォームが責任を負い、チェックしなければならないというものである。
プラットフォームを提供するYouTube、Facebook、Twitter、Instagram、Medium(次世代SNSプラットフォーム)やWordPress(CMSプラットフォーム)に至るまで、ユーザーが投稿したテキスト、画像、動画など、著作権侵害がないか監視する義務を負うことになる。
「第13条」への対策として、YouTubeでは、著作権違反をチェックする「コンテンツフィルター」を一部実装し、著作者から訴えられる前に、映像を自動削除する機能を試験運用しているが、問題のないホームビデオも削除されるケースなどもあり、今後はこの「コンテンツフィルター」にあってはトラブルも予想される。
尚、「第13条」の対象範囲とならないものに、非商用のWikipediaやオープンソース管理サービスのGitHubがある。
今回のこのEU著作権に関する「第11条」と「際13条」の改正法案については、報道機関の情報にただ乗りして巨利を得ているネット企業は、「その利益を著作者に還元すべき」と訴える賛成派と、「インターネットを破壊する」、「表現の自由を脅かす」など反対派に意見は大きく分かれている。
ここでは賛成派、反対派の意見をまとめてみた。
ニュースコンテンツを配信しているGoogleなどニュース記事に対して、新聞社、出版社などのパブリッシャーは、コンツンツ使用料を受けることに大きな期待を寄せている。
EUでこの法案を支持しているのは、欧州雑誌メディア協会、欧州新聞出版社協会、欧州出版社評議会、ニュース・メディア・ヨーロッパの4つの団体である。
また、ヨーロッパの映像作家165人もNetflix(アメリカの映像ストリーミング配信企業)やAmazon(アマゾンプライム会員用ストリーミング映像、音楽配信)らに著作権監視の多くの権利を与えて、彼らが著作権料を管理できるようにしてもらいたいと、この改正案を通過させた。
反対派はこの改正案は「言論の自由を大きく阻害する」としている。
Webの父と呼ばれるティム・バーナーズ=リー氏やWikipedia創設者のジミー・ウェールズ氏をはじめとする、インターネット界のパイオニア70名も反対を表明しており、特に、著作権をチェックする「コンテンツフィルター」の実装は、インターネット上のあらゆるもの検閲を意味しており、「インターネット文化の終わりかもしれない」と警鐘を鳴らしている。
EUの著作権改正法案は先にも述べたように、「GDPR」同様にEU圏外の諸外国にも影響を及ぼすだろう。
この法案は言わば、大手IT企業をターゲットにしたものと言える。 まず、「第11条」は、Googleのような大手IT企業がEU圏内の報道機関などのコンテンツにリンクした場合、ライセンス料を請求できるようにしたもの。
「第13条」は、YouTubeやFacebookのような特定のプラットフォームは、EU圏内の無許可の著作物を共有する場合、ユーザーコンテンツを事前チェックし、万が一配信した場合も強制停止できる、という点である。
この法案はEU圏内に限るものとは言え、2019年1月に法案が可決されるた場合はEU圏内にとどまらず、EU圏外のユーザーにとっても、インターネットのあり方を変革するものとなるだろう。