
ハンドバッグや靴などのファッションアイテムから自転車やパソコンに至るまで、カスタマイズできる商品を販売する動きが、アメリカのEコマース業界で急速に広がっています。例えば、スポーツブランドのNikeは、靴のカスタマイズ専門サイトNIKEiDを運営しています。
ユーザーは靴の基本色から靴ひもなどのパーツの色、靴底のタイプに至るまで、あらゆるパーツを自分好みにカスタマイズし、標準仕様の商品とほとんど変わらない価格で購入することができます。こうしたカスタマイズ商品が人気を集めているのはなぜなのか、今回はその理由を探ります。

NikeiD
米コンサルティング企業のBain & CompanyがEコマースサイトを運営する企業1,000社に対して実施した調査によると、カスタマイズを実際に導入している企業は10%で、カスタマイズに関心を抱いている企業は25~30%と全体の4分の1を占めています。
多くのEコマース企業がカスタマイズに関心を抱く理由として、顧客のエンゲージメントを高めたり、商品の購入額を押し上げたりする効果が大きいことが挙げられます。
同調査によれば、カスタマイズができる商品を扱うウェブページは、カスタマイズができない商品を扱うウェブページに比べて約1.7倍の訪問者を集めています。また、顧客の平均購入額もカスタマイズできる商品の方が約1.3倍高くなっています。

人々はなぜカスタマイズできる商品に魅力を感じ、より多くのお金を支払ってしまうのでしょうか? そこには心理学上の裏付けがありました。
カスタマイズ商品の魅力は、ユーザーが商品のデザインや機能などを決める製造過程に参加し、最終的に自分好みに仕上がった商品を手にできるという点にあります。世界に1つしかないオリジナルの商品に、誰もが我が子に抱くような愛着を感じるでしょう。
こうした心理的効果を、Psychological Ownershipと呼び、たとえ法的な権利を主張できないとしても、大切に作り上げる過程を経て、自分のもののように愛着を感じることを言います。教員が教え子の活躍に対して、自分のことのように誇らしく思うのもこうした心理的効果によるものです。
商品のカスタマイズでは、色や形などをユーザーが具体的に決めていきます。こうした過程に参加すれば、より、オンラインで仕様の決まった商品を購入するよりも、ずっと鮮明に商品のイメージを膨らませることができます。
カスタマイズにおけるインタラクティブなやり取りは、商品を説明するテキストや写真を閲覧することに比べて、より具体的に商品のイメージを抱かせる効果があると言われています。
人は自分の手が少しでも加わったものに価値を感じる傾向があります。例えば、アメリカで1950年代に発売された、焼くだけでケーキを作ることができるケーキミックスは、主婦の仕事を軽んじるものとして当初敬遠されましたが、購入者が自分で「卵を入れる」という工程を加えたところ爆発的なヒット商品となりました。
カスタマイズにおいても、色や形を決めるといった仕事をユーザー自身が担い、その作業をした分だけ商品に付加価値を感じ、少し多めに金額を支払ってもよいという心理が働くのです。
カスタマイズ商品の魅力は、自分だけのオリジナル商品を所有できるという優越感にあるだけではなく、さまざまな心理的効果が絡み合って形成されています。顧客の満足度が高いカスタマイズ商品の導入は、ブランドや企業に対するエンゲージメントを高める絶好の手法ではないでしょうか。
The Psychology Of Online Customization
Making it personal: Rules forsuccess in product customization