越境ECの始め方ガイド|基礎・準備・成功するためのポイントを解説

海外の消費者に向けて商品を販売する越境ECは、国内市場の縮小や競争激化を背景に、多くの事業者から注目を集めています。2024年時点で世界の越境EC市場は約152兆円に達し、今後10年で7倍以上の成長が予測されるなど、大きなビジネスチャンスが広がっています。しかし、越境ECを始めるには、国内ECとは異なる準備や知識が必要です。

本記事では、越境ECの基礎知識から具体的な始め方、成功するためのポイント、そして注意すべきリスクと対策まで、実践的な情報を体系的に解説します。これから海外販売に挑戦したい方は、ぜひ参考にしてください。

越境ECとは?始め方の全体像

越境ECに取り組む前に、まずは基本的な概念と市場の現状を理解することが重要です。ここでは、越境ECの定義からメリット・デメリット、市場規模、そして売れやすい商品カテゴリまで、全体像を把握するための情報をお伝えします。

越境ECの定義

越境ECとは、国境を越えて行われる国際的な電子商取引のことを指します。日本国内の事業者が海外の消費者に向けて商品を販売する形態が一般的ですが、BtoC(企業対消費者)だけでなくBtoB(企業間取引)も含まれます。

国内ECとの大きな違いは、多言語・多通貨への対応が求められる点です。また、国際決済システムの導入、複雑な国際物流への対応、そして販売先となる各国の法規制への準拠が必要になります。国内向けのネットショップ運営とは異なるスキルやノウハウが求められるため、事前の準備と学習が成功への鍵となります。

越境ECのメリット

越境ECに取り組むことで、事業者は複数の大きなメリットを得られます。最も大きいのは、商圏の劇的な拡大です。日本国内だけでなく世界中の消費者を顧客として獲得できるため、売上の上限が大幅に引き上げられます。

また、海外に実店舗を展開する場合と比較して、コストと時間を大幅に削減できる点も魅力です。店舗の賃料や人件費、現地法人の設立費用などが不要となり、比較的少ない初期投資で海外市場に参入できます。

さらに、国内では競争が激しい商品カテゴリでも、海外市場ではライバルが少ない可能性があります。訪日外国人観光客が日本で購入した商品のリピート購入を促進できる点も、越境ECならではの強みです。

越境ECのデメリット

一方で、越境ECには国内ECにはない課題やリスクも存在します。まず、国際物流への対応が挙げられます。インボイス(商業送り状)の作成や関税の算出など、国内配送では不要だった作業が発生します。

国や地域ごとに異なる規制や決済手段への対応も大きな負担です。ある国では問題なく販売できる商品が、別の国では輸入禁止されているケースも珍しくありません。高額な国際輸送コストと為替変動によるリスクも、利益率に影響を与える要因となります。

加えて、返品対応の負担は国内ECよりも格段に大きくなります。国際便での返送費用や通関手続きの煩雑さを考慮した運営体制が必要です。

越境ECの市場規模と成長予測

世界の越境EC市場は急速に拡大を続けています。2024年時点での市場規模は約152兆円に達しており、2034年には約1,012兆円まで成長すると予測されています。つまり、今後10年間で約7倍もの成長が見込まれる巨大市場なのです。

特に注目すべきは日中間の越境EC市場です。中国の消費者が日本から購入した金額は2兆6,372億円に上り、前年比8.5%の増加を記録しています。中国市場では「Made in Japan」の品質に対する信頼が厚く、日本製品への需要は引き続き堅調です。

こうした市場環境を踏まえると、越境ECへの参入は早いほど有利といえます。競合が少ないうちにブランドを確立し、顧客基盤を築くことが長期的な成功につながります。

越境ECで売れやすい日本製品のカテゴリ

海外で特に人気の高い日本製品カテゴリを把握しておくことは、商品選定において重要なヒントとなります。

最も需要が高いのは化粧品・スキンケア製品です。資生堂、肌ラボ、KOSEなどのブランドは中国市場を中心に絶大な人気を誇っています。美白効果や自然由来成分を打ち出した商品が特に好まれる傾向にあります。

次に人気なのがアニメ・キャラクターグッズです。フィギュア、ぬいぐるみ、Tシャツ、文具などが、アメリカ、フランス、フィリピン、ブラジルなど世界各国で需要があります。動画配信サービスでのアニメ視聴の普及や「推し活」文化の広がりが、市場拡大を後押ししています。

日用雑貨も見逃せないカテゴリです。シャンプーブラシや抗菌スポンジ、マグネット収納など、日本ならではのアイデア商品や100円ショップ系の機能美を備えた製品が海外で評価されています。お菓子・スナック類も、抹茶キットカットやポッキーなどがSNSでの話題性と買いやすい価格帯から、リピート購入されやすい人気商品となっています。

伝統工芸品や和雑貨は、ヨーロッパやアメリカのギフト市場との相性が良好です。南部鉄器、九谷焼、風呂敷、扇子などは、高単価でも購入されやすい傾向があります。

越境ECの始め方と出店方法の種類

越境ECを始める方法は一つではありません。事業規模や目標、リソースに応じて最適な方法を選択することが、スムーズなスタートにつながります。ここでは、主要な4つの出店方法について、それぞれの特徴とメリット・デメリットを解説します。

国内の海外対応プラットフォームに出店する方法

最もハードルが低い越境ECの始め方が、楽天市場やAmazon Japan、Qoo10などの国内プラットフォームを活用する方法です。これらのプラットフォームには海外向け販売機能が備わっており、既存の商品ページから機械翻訳で多言語ページを自動生成できます。

この方法の最大のメリットは、既存のオペレーションをほとんど変更せずに海外販売を始められる点です。すでに国内ECを運営している事業者であれば、追加の負担を最小限に抑えながら、海外市場の反応をテストできます。

ただし、海外での集客力は限定的であることを理解しておく必要があります。海外の消費者がこれらの国内プラットフォームを積極的に利用するとは限らないため、自社でのマーケティング施策が別途必要になるケースがほとんどです。

海外のECモールに出店する方法

より積極的に海外市場を開拓したい場合は、現地のECモールへの出店が効果的です。代表的なプラットフォームにはそれぞれ異なる特徴があります。

Amazon Global Sellingは、アメリカ、イギリス、ドイツ、インドなど世界16カ国への展開が可能です。Amazonのブランド力と物流網を活用できるため、初めての海外出店でも比較的スムーズに販売を開始できます。

eBayは世界190カ国以上への出品が可能で、一括出品機能により効率的な多国展開が実現できます。出店にはPayoneerアカウントの開設が必要ですが、オークション形式と固定価格販売の両方に対応しており、商品特性に応じた販売戦略を取れます。

中国市場を狙う場合は、Tmall Global(天猫国際)が有力な選択肢です。中国最大の越境ECモールとして高い集客力と信頼度を誇り、中国法人の設立なしで出店できます。ただし、商標取得などの出店条件が厳しく、審査にも時間がかかるため、十分な準備期間を見込んでおきましょう。

東南アジアや台湾をターゲットとするなら、Shopeeが適しています。スマートフォンアプリ経由の購入率が高く、初期コストが低い点が魅力です。

自社で越境ECサイトを構築する方法

自社ブランドを確立し、顧客データを完全に自社で保有したい場合は、独自の越境ECサイトを構築する方法が最適です。ShopifyやLive Commerceなどの越境EC向けプラットフォームを活用すれば、専門的な技術知識がなくても本格的な越境ECサイトを構築できます。

自社ECサイトのメリットは、多言語・多通貨対応を自由に設計できる点にあります。各国の決済手段や税制にも柔軟に対応でき、アプリやプラグインを活用すれば海外SNSとの連携や物流管理も効率化できます。独自ドメインでの運営により、ブランドイメージの構築と長期的な資産形成が可能です。

一方で、集客は基本的に自力で行う必要があります。SEO対策やSNS広告など、マーケティング活動に継続的な投資が求められます。決済システムやセキュリティ対策も自社で整備する必要があり、初期段階での負荷は他の方法と比べて高くなります。

海外転送サービスを利用する方法

既存の国内ECサイトを維持しながら、最小限の変更で海外販売を始めたい場合は、海外転送サービスの活用が有効です。WorldShopping BIZやZenLink、Buyee Connectなどのサービスが代表的です。

仕組みとしては、既存の国内ECサイトに専用タグを埋め込むだけで導入が完了します。海外の顧客が商品を購入すると、サービス提供企業が代理購入を行い、その後海外へ発送してくれます。事業者側は国内発送の対応だけで済むため、オペレーションの変更を最小限に抑えられます

料金体系はサービスによって異なりますが、WorldShopping BIZの場合、月額5,500円(税込)、初期費用33,000円(税込)で、売上手数料や海外送料の負担がない点が特徴です。ZenLinkは約180万PVの集客支援機能も備えています。

ただし、事業の規模拡大には向いていません。あくまでも越境ECのテスト段階や、小規模な海外販売に適した方法と位置づけるのが適切です。

越境ECを始めるための準備と具体的な手順

出店方法を決めたら、次は具体的な準備に取りかかります。ここでは、ターゲット市場の調査から商品選定、関税・決済・物流の設定、そしてマーケティングまで、越境ECを始めるために必要な準備を順を追って解説します。

ターゲット市場の調査方法

越境ECの成功は、適切なターゲット市場の選定から始まります。闇雲に多くの国へ展開するのではなく、自社商品との相性が良い市場を見極めることが重要です。

市場調査で確認すべき主な指標は、市場規模とEC化率です。EC利用率が低い国では、そもそもオンラインショッピングの習慣が根付いていないため、販売機会が限られます。ASEANはEC化率が急速に伸びており、モバイルファーストの消費者が多い点が特徴です。ヨーロッパは成長率こそ落ち着いていますが、高単価商品が売れやすい傾向があります。

日本製品への親和性や好感度も重要な判断材料です。「Made in Japan」の評価は国によって異なり、東南アジアやアメリカでは特に高い信頼を得ています。物流インフラの整備度も見逃せないポイントで、配送遅延が発生しやすい国では顧客満足度の維持が難しくなります。

実践的な調査方法としては、Google Analyticsで自社サイトへのアクセス元国を分析する方法があります。すでに海外からのアクセスが多い国から展開を始めれば、需要が実証されているためリスクを最小限に抑えられます

販売する商品の選び方

越境ECで販売する商品は、複数の観点から評価して選定する必要があります。

まず確認すべきは、対象国での需要の有無です。そのカテゴリの商品が実際に購入されているか、競合商品の価格水準はどの程度かを調査します。需要がなければ、どれだけ優れた商品でも売上にはつながりません。

次に、輸送の実現可能性を検討します。容積が大きく重い商品は、国際輸送コストが商品価格に対して割高になり、採算が合わないケースがあります。利益率を確保できる商品サイズと重量を意識しましょう。

輸出規制の有無も必ず確認してください。ワシントン条約の対象となる動植物由来の製品や、ダイヤモンドの原石、特定のインク類などは輸出が制限されています。「輸出貿易管理令」で詳細を確認し、問題のない商品を選びましょう。

さらに、対象国の法規制への適合も重要です。中国で化粧品を販売する場合は「化粧品登録」が必須であり、EUではCEマークの取得が求められる製品カテゴリがあります。食品は成分基準やラベル表示義務が国ごとに異なるため、事前の調査が欠かせません。

関税と税務の基礎知識

越境ECでは、関税と付加価値税(VAT)の仕組みを理解しておくことが不可欠です。これらのコストを適切に価格に反映しないと、利益を確保できなくなります。

関税の計算方式は主に3種類あります。最も一般的なのは従価税で、商品価格に対して一定割合が課税されます。従量税は商品の重さや数量で課税され、主に農産品に適用されます。混合税は両方を組み合わせた方式です。

多くの国には「デミニミス値」と呼ばれる関税免税閾値が設定されています。EUでは150EUR以下は関税免除ですが、VATは常に課税される点に注意が必要です。イギリスは135ポンド以下、カナダは20CAD以下、アメリカは800ドル以下が免税となります。アメリカの閾値は非常に高く設定されているため、多くの商品が関税なしで販売できます。

付加価値税(VAT)は日本の消費税に相当するもので、原則として免税はありません。課税ベースはCIF価格(商品価格+送料+保険料)となるため、送料込みの金額に対して税金がかかることを覚えておきましょう。

決済手段と通貨設定の整え方

海外の消費者がスムーズに購入できるよう、適切な決済手段と通貨設定を整えることが重要です。

決済方法は国によって主流が異なります。中国ではALIPAY(アリペイ)や銀聯(UnionPay)への対応が必須です。欧米ではクレジットカードやPayPalが一般的ですが、国ごとの傾向を把握して対応する決済手段を選定しましょう。

通貨設定については、デフォルト通貨が決済と入金に使用されることを理解しておく必要があります。顧客の利便性を高めるために、複数通貨での表示切替え機能を用意するのが望ましいです。米ドル、ユーロ、人民元など、主要な通貨に対応しておくと、幅広い顧客をカバーできます。

為替レートは常に変動するため、日足、週足、月足で定期的に確認する習慣をつけましょう。急激な変動があった場合は、価格調整を検討する必要があります。

配送方法と物流業者の選び方

越境ECの物流は、大きく3パターンに分けられます。自社の状況と商品特性に合わせて最適な方法を選びましょう。

直送型は、日本の自社倉庫から海外顧客へ直接発送する方法です。初期投資が少なく済み、同梱物を通じたファンづくりも可能です。ただし、送料が高くなりがちで配送時間も長くなります。商品が届かない場合の返送リスクも考慮が必要です。

現地倉庫型は、ターゲット市場に在庫を事前に配置する方法です。現地配送並みのスピードで届けられるため、顧客満足度を高められます。一方で、在庫管理の手間や倉庫費用が発生するため、ある程度の販売規模が見込める段階で検討するのが現実的です。

ECモール一体型は、Amazon FBAのように保管・配送・カスタマーサポートを一括で提供してもらえる方法です。運営の手間が大幅に削減できますが、税関で商品が止められるリスクが比較的高い点に注意が必要です。

配送業者については、DHL、FedEx、ヤマト国際宅配便などはスピードとトラッキング精度に優れていますが、費用は高額です。EMS(国際郵便)は配送料が安く、最大200万円の損害賠償制度もあるため、多くの越境EC企業が利用しています。

多言語化とカスタマーサポートの準備

海外顧客に商品を販売するには、言語の壁を乗り越える必要があります。ただし、すべてを一度に翻訳する必要はありません。段階的に進めることで、コストと効果のバランスを取りながら準備を進められます。

翻訳の優先順位としては、まず商品情報を最優先で対応します。次にカート・決済ページ、その後に利用規約、最後にFAQという順序が効率的です。翻訳手法としては、機械翻訳を活用しつつネイティブによるチェックを行う方法が、コストと品質のバランスに優れています。

カスタマーサポートでは、言語の壁が大きな課題となります。英語だけでなく、販売対象国の母国語での対応が求められるケースも少なくありません。スペイン語、フランス語、ドイツ語、中国語など、ターゲット市場に応じた言語対応を検討しましょう。

タイムゾーンの違いも考慮が必要です。24時間対応や現地時間に合わせた体制の構築が理想的ですが、リソースに限りがある場合は、BPO(外部委託)やAI翻訳機能を搭載したチャットボットの活用も有効な選択肢です。複雑な問い合わせは人間が対応し、よくある質問は自動対応するハイブリッド型の運用が現実的です。

マーケティングと集客の始め方

越境ECでは、商品ページを用意しただけでは顧客は訪れません。積極的なマーケティング活動が不可欠です。

最も有効なのはSNSの活用です。新商品やキャンペーン情報の発信、商品の使い方に関するTIPSの共有、ユーザーとのコミュニケーションを通じて、ブランドの認知度を高めていきます。情報の拡散によって、広告費をかけずに新規顧客を獲得できる可能性もあります。ただし、効果を実感するまでには時間がかかるため、継続的かつ長期的な取り組みが求められます。

国によってメジャーなSNSは異なることに注意してください。中国ではWeChat(微信)やWeibo(微博)、韓国ではカカオトークやNAVERが主流です。ターゲット市場で影響力のあるプラットフォームを見極めましょう。

現地のインフルエンサーを起用する方法も効果的です。現地の事情に精通したインフルエンサーは、文化的な文脈を踏まえた情報発信ができるため、より深い共感を生み出せます。

Web広告やSNS広告も重要な集客手段です。特にリターゲティング広告は、一度サイトを訪れた見込み客に再度アプローチできるため、費用対効果が高い傾向にあります。海外向けのSEO対策は難易度が高いため、広告を活用した集客に重点を置くのが現実的な戦略です。

越境ECの始め方でよくある注意点とリスク対策

越境ECには、国内ECでは想定しにくいリスクや注意点が存在します。ここでは、代表的なリスクとその対策について解説します。事前に対策を講じておくことで、トラブルを未然に防ぎ、安定した運営を実現できます。

輸出制限と法規制の確認・対策方法

商品を海外に発送する前に、輸出制限と販売先国の法規制を必ず確認してください。知らずに違反すると、商品の没収だけでなく罰金や刑事処罰を受ける可能性があります。

日本からの輸出については、ワシントン条約の対象となる動植物由来の製品は輸出が制限されています。ダイヤモンドの原石や特定のインク類なども輸出規制の対象です。詳細は「輸出貿易管理令」で確認できます。

中国向けには特殊な規制があります。法令で禁止されているもの、ポジティブリストに含まれないもの、個人消費用の範囲を超える商品は販売できません。酒類の例では、梅酒や日本酒は越境ECで販売可能ですが、ビールは対象外となっています。また、福島第一原発事故の影響で、10都県の食品は現在も輸入停止措置が継続中です。

EU向けでは、特定危険化学品や特定の食品・農水産品・飲料、特殊な野生動植物、薬物、鉄鋼製品、廃棄物などに規制があります。違反した場合は高額の罰金や刑事処罰の対象となるため、該当商品を扱う場合は専門家への相談をお勧めします。

為替変動と価格管理の対策

越境ECでは、為替変動が利益に直接影響を与えます。円高になると海外顧客にとって日本製品が割高になり、購買意欲の減退につながります。逆に円安の場合は、外貨建て売上を円に換算した際の利益マージンが圧縮されます。

対策としては、まず日本円建て決済の導入を検討する方法があります。為替リスクを顧客側に転嫁する形になりますが、自社の利益は安定します。外貨決済を採用する場合は、信頼できる決済業者を選定し、有利なレートで両替できる仕組みを整えましょう。

価格設定では原価に為替リスクを織り込んだマージン設定が重要です。為替が不利に動いた場合でも一定の利益を確保できるよう、余裕を持った価格設計を心がけてください。

返品ポリシーとクレーム対応の作り方

返品に関するルールは国によって大きく異なります。販売先の国ごとに適切な返品ポリシーを作成し、顧客に明確に表示することが求められます。

日本では特定商取引法により、商品引渡しから8日間のクーリングオフ期間が定められています。EUでは消費者権利指令に基づき、14日間の撤回権が消費者に認められています。さらに、事業者が情報提供義務を果たさなかった場合、この期間は12カ月に延長されます。EUの消費者向けには、現地の法律に準拠した返品ポリシーを別途作成する必要があります。

一方、アメリカでは州法で規定されていない限り、事業者の判断で返品を認めないことも可能です。ただし、顧客満足度やブランドイメージへの影響を考慮して、適切な返品ポリシーを設定することをお勧めします。

クレーム対応については、言語の壁を乗り越えるための体制整備が重要です。テンプレート化した対応文を用意しておくと、迅速かつ一貫性のある対応が可能になります。

物流遅延や破損への備え

国際配送では、国内ECと比較して返品、紛失、破損が発生しやすい傾向があります。距離の長さ、時差、関税手続きなどの要因で配送遅延も起こりやすく、返品送料や通関費用も高額になります。

対策として有効なのは、ハイブリッド運用です。複数の配送方法を用意し、商品特性や配送先に応じて使い分けることで、リスクを分散できます。高額商品や壊れやすい商品にはトラッキング精度の高い業者を選び、通常商品にはコストを抑えた方法を使うといった使い分けが考えられます。

配送業者の選定では、スピードだけでなく顧客への安心提供も重視しましょう。顧客が荷物の状況を確認できるトラッキング機能の充実度、万が一の際の補償内容なども比較検討のポイントとなります。

梱包は国際輸送に耐えうる強度を確保してください。国内配送の感覚で梱包すると、輸送中の衝撃で商品が破損するリスクが高まります。

個人情報保護とセキュリティ対策

越境ECでは、販売先国の個人情報保護規制にも対応する必要があります。特にEUのGDPR(一般データ保護規則)は、違反時に極めて高額な罰金が科される厳格な規制です

GDPRでは、EU居住者の個人情報を取り扱う場合、明示的な同意の取得やデータの適切な管理、削除要請への対応などが義務付けられています。EU向けに販売を行う場合は、プライバシーポリシーの整備と運用体制の構築が必須です。

セキュリティ面では、海外クレジットカードの不正使用に対する警戒が必要です。偽造カードや他人のカードを使った不正注文のリスクは、国内取引よりも高いといえます。高額取引や不審な注文があった場合は、カードや身分証のコピーを要求する、銀行振込への変更を依頼するなどの対策を講じましょう。

また、海外PL保険(海外生産物賠償責任保険)への加入も検討してください。海外で販売した商品が原因で消費者に損害を与えた場合、多額の賠償責任を負う可能性があります。保険でリスクをカバーしておくことで、安心して事業を展開できます。

まとめ

本記事では、越境ECの始め方について、基礎知識から具体的な準備手順、そしてリスク対策まで体系的に解説しました。

  • 越境EC市場は2024年に約152兆円、2034年には約1,012兆円への成長が予測される有望市場
  • 出店方法は国内プラットフォーム、海外ECモール、自社サイト構築、転送サービスの4パターンから選択
  • ターゲット市場の調査では、EC化率、日本製品への親和性、物流インフラを確認する
  • 関税・VAT・決済・物流の基礎知識を身につけ、適切な価格設定と運用体制を構築する
  • 輸出規制と販売先国の法規制を事前に確認し、違反リスクを回避する
  • 為替変動、返品対応、物流トラブル、セキュリティなど、各種リスクへの対策を講じる
  • テスト販売から始めて市場の反応を確認し、段階的に展開を拡大するアプローチが効果的

越境ECは準備すべきことが多く、最初は複雑に感じるかもしれません。しかし、一つひとつのステップを着実に進めていけば、海外市場での販売は十分に実現可能です。まずは自社商品と相性の良い市場を一つ選び、小規模なテスト販売から始めてみてはいかがでしょうか。

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