これは、今後越境ECを始めようと考えている、又は既にやっている方向けの記事です。
特に、「容積重量」という言葉を聞いた事がないという方には是非読んでいただきたいと思います。
そもそも、「容積重量」というのは運送会社で送料の計算をする時に使われる言葉です。
これまで、日本の越境ECでの配送手段といえば日本郵政のEMSがメインでした。
そして、EMSでは、実重量のみで送料が決まります。容積重量を知る必要はありませんでした。
しかし今年の春、世界でコロナウイルスが猛威を振るい、EMSは配送遅延や一時的な荷物の引き受け停止をする事になりました。
それにより、日本の越境ECショップはDHL や FedExといった配送会社がEMSに代わる配送手段として越境ECのメインストリームになり始めています。
DHLやFedExは過去の記事でも紹介したとおり、EMSに比べれば圧倒的な配送スピードという利点があります。実際、EMS利用時と比較すると、当社が運営するDiscovery Japan Mallでは物流に関するお客様からの遅延関連の連絡お問い合わせ件数が1/10以下に減っており、このことからも越境ECに関しては日本郵便のEMSからDHL や FedExがデファクト・スタンダード(事実上の標準)になる可能性がでてきました。
そこで、本稿ではDHL や FedExのメリットを最大限活かすために、「容積重量」というあまり聞き慣れない業界特有の重量に関する規定について詳しく解説します。
まずは下の画像を見てください。注文管理画面の一部を切り取ったものです。
赤枠上が商品代金。下が送料です。
1万円の商品に対して、6万円以上もの高額な送料が発生しているのがわかります。
一体なぜ送料がここまで高額になっているのでしょう?
その理由こそが、「容積重量」なのです。
物を送る際に必ず気にしなければならない要素が「重量」です。
送料は送る物の重量に比例して高くなるので、一般的なECサイトでは商品登録の際に必須項目として「重量」を要求されます。
先ほどの注文の商品重量は1つ約0.8kg。
海外発送とはいえ、この重量で計算して送料が6万もする事は通常あり得ない事です。
この送料の理由が、商品の大きさに依存する「容積重量」です。
容積重量とは、運送業界で使用する重量計算の方法で、簡単に言うと
「軽くて大きい荷物を配送する際、荷物の大きさから仮の重量を計算する方法」です。
計算式は運送手段や会社によって異なりますが、DHLや FedExでは
{縦(cm) × 横(cm) × 高さ(cm)}÷ 5000 (会社指定の係数)= 容積重量(kg)
と規定されています。
例えば、40cm四方のダンボール箱で計算した場合、
40 × 40 × 40 ÷ 5000 = 12.8kg相当
となります。
同様に20cm四方のダンボールで計算をすると、なんと1.6kg相当です。
発送時の梱包サイズが送料に大きく影響する事がわかります。
DHLでは、この容積重量と実際の重量を比較して「より重い方」を送料計算時の「重量」としています。
(参考)DHL Expressの容積重量計算
(参考)ご利用にあたって – FedEx
先の画像の商品は、実際の重量は1kg以下でした。
しかし、大きく嵩張る商品だった為に、梱包後に容積重量を計算すると数十kgとなり、6万円を超える送料となってしまった例だったのです。
容積重量と実重量は、軽い荷物ではどれ位の差が出るか実際に計算してみました。
下の画像は、Amazonの「日清カップヌードル 1ケース(20個入り)」の詳細情報の切抜きです。
容積重量 (DHL基準)
11 × 51.51 × 42.01 ÷ 5000 ≒ 4.76 (kg)
実重量
2.2 (kg)
実に2倍以上の差があります。これは、
DHLで発送した時には5.0kgの送料で
EMSで発送した時には2.5kgの送料で計算されることを表しています。
先に紹介した通り、EMSには容積重量計算がなく、実重量のみで送料が決まります。
(参考)EMS 国際郵便 – 料金・日数を調べる(サイズの入力欄がない)
その為、特に軽くて大きい荷物の送料が他業者より安いと言われる点が高く評価されていましたし、契約も不要で、月に出荷する数量の少ない個人でも手軽に使えます。
また、DHLやFedExといった会社は自社で航空機を所持*(注1)している事が最大の強みです。
これにより、EMSに比べて圧倒的な速さで配送をする事が可能ですし、
一般客が乗る旅客機に荷物を積むEMSやヤマト運輸と違い、貨物のみの輸送をしている為コロナウイルスの影響で遅延や引き受け停止をするといった事もありませんでした。
軽量コンパクトな荷物の送料に関して言えばEMSより安い価格*(注2)である事など、素晴らしい点も多く、一概にどちらが優れているといった評価はできません。
DHLに関しては、弊社の大塚が別で記事を書いております。興味のある方は以下のリンクよりご覧下さい。
ここまでの重量差が出る以上は、今後越境ECで複数の配送方法を提供するのであれば、配送方法毎の「みなし重量」の設定は必須であると言えるでしょう。
*(注1)DHLの登録航空機は23機、FedExの登録航空機は744機(各リンクから内訳が見られます)
*(注2) DHLやFedExの送料は契約によって異なる為、必ずしもEMSより安いとは限りません。
参考送料は後述の「実測!FedExとEMS 送料対決!」をお読み下さい。
そもそもなぜ、容積重量計算などという面倒な計算方法が使われるのか?
これは、物流にかかるコストの部分が関係しています。
元々容積重量という言葉は物流業界で一般的に使われているものです。
そして、あらゆる物流では一度の運搬で運べる限界の大きさと重量が決まっています。
例えば航空機なら、貨物室の大きさを超えて物を載せることはできませんし、荷物が重すぎると飛ぶ事ができません。
こうした限界がある中で、実重量だけで送料を決めてしまうと、商材によっては輸送コストが大きく変わり不公平になってしまう事があるのです。
金属部品の様な小さくて重い商品の方が、一度に沢山運べるのに輸送費が高く、
羽毛布団の様な大きくて軽い商品の方が、場所をとってしまうのに輸送費が安い、といった様な状況が生まれてしまうのです。
そこで、大きさを重さに置き換える「容積重量」を使うことで、どんな荷物でもなるべく公平な輸送費になるようにしているわけです。
寧ろ、容積重量を設定していないEMSが本来ならばおかしいと言えるかもしれません。
容積重量という概念は、実は身近でも使われています。
国内で宅急便を送る時に使われる「60サイズ」や「120サイズ」といったものは容積重量を区分けし、簡易化したものです。
規定のサイズ内であっても、規定の重量を超えると上のサイズで計算されるのは、容積重量の考え方が元にある為です。
よく使われる荷物の大きさに対して、わかりやすく、かつ送料が計算しやすい様に工夫された表記になっています。
また、国内便であっても定型を超える大きい物は容積重量で計算されます。
ヤマト運輸を例に取ると
縦 (m) × 横 (m) × 高さ (m) × 280 = 容積換算重量(kg)
という式で計算されると公表しています。
(参考)ヤマト便料金表
また、Amazonの「パントリーBOXサービス」にも容積重量の考え方が使われています。
これは、規定サイズの箱に入るだけの商品を、送料定額で送る事ができるというサービスで、
パントリーBoxの箱の大きさは52cm × 28cm × 36cm、最大重量は12kgとなっています。
これをヤマト運輸の計算式に当てはめると、容積重量は
0.52m × 0.28m × 0.36m × 280 = 14.67 (kg)
少し余裕を持った設定ですが、最大重量は容積重量から設定されている事が伺えます。
容積重量の話をする際に、よく聞かれるのが「係数」に関してです。
DHLであれば「÷5000」、ヤマト運輸であれば「×280」、
この5000とか280という数字はどういう意味を持っているのかについて説明します。
この数字は「特定の大きさあたりの重量・又は重量あたりの大きさ」を表したもので、いわゆる「比重」を表した数字です。
この数字は陸・海・空それぞれの貨物輸送で、使用される数値がある程度決まっています。
陸上では 1㎥=280kg
海上では 1㎥=1000kg
航空では 6000㎤=1kg (DHLやFedExは5000㎤=1kg)
このままではわかりにくいので左側を揃えます。
陸上貨物は 1㎥=280kg
海上貨物は 1㎥=1000kg
航空貨物は 1㎥=166.6kg ( 6000㎤=1kgの場合)
1㎥=200kg ( 5000㎤=1kgの場合)
1㎥の重さ<右側の重量 になると、容積重量<実重量 となります。
海上>陸上>航空の順に、重い荷物を運ぶのに適しています。
海上貨物は航空貨物に比べて5倍重い荷物でも、航空便と料金が変わらないわけです。
では、具体的にどんなものがどういった送料で送れるのか?
弊社で契約しているFedExのレートと、EMSの送料を用いて比較してみたいと思います。
(発送先は米国ニューヨークを想定、配送オプション等無しの場合)
CASIO F-91W
梱包サイズ
13 x 13 x 13 cm
梱包重量
86.18 g
容積重量
0.43 kg
FedEx送料(容積重量)
0.5 kgまで 約1500円
EMS送料(実重量)
0.5 kgまで 2000円
CANON SX420 IS
梱包サイズ
9 x 7 x 11 cm
梱包重量
557.9 g
容積重量
0.13 kg
FedEx(実重量)
1.0 kgまで 約1700円
EMS送料(実重量)
0.6 kgまで 2180円
ネピア プレミアムソフト
梱包サイズ
34.5 x 20 x 19 cm
梱包重量
1.25 kg
容積重量
2.66 kg
FedEx送料(容積重量)
3.0 kgまで 約2600円
EMS送料(実重量)
1.25 kgまで 3300円
タンスのゲン 布団 4点セット
梱包サイズ
56.4 x 36.2 x 35.6 cm
梱包重量
7.1 kg
容積重量
14.53 kg
FedEx送料(容積重量)
15.0 kgまで 約8400円
EMS送料(実重量)
8.0 kgまで 12300円
FedExはDHLに比べて重たい荷物の送料が安い傾向があります。そのため今回の検証はDHLではなくFedExで行なったのですが、これは凄い結果でした。
また、FedExの送料は契約者によって違います、これはあくまで弊社で発送した時の金額ですが、筆者本人も思ったより差が出てビックリしています。
本当は炊飯器等の家電も比較しようと思ったのですが、FedExの15kgの送料がEMSの8kgより安価だった事で結果が見えてしまったのでやめておきます。
容積重量という考え方は、現在越境ECをする上で欠かせないものになっています。
無駄に大きい箱を小さくするだけでも、容積重量によって送料は大きく変わり、コストの削減・料金の改善に繋がります。
また、今回の実証では送料の部分だけを比較しましたが、越境ECにおける物流の優劣はそれだけで決められるものではありません。速度や保証、通関等の要素も重要になってきます。
今後、EMSが復活してDHL・FedEx等と併用が可能になれば、それだけでも様々なニーズに答えられるようになるでしょう。
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