アメリカでは近年、「サブスクリプションビジネス」と呼ばれる定期購入型ビジネスに参入する事業者が増えている。
ギャップなどアパレル系企業やポルシェなど自動車メーカーなど自社の車両を定期レンタルできるサービスを開始したり、新しいビジネスモデルに注目が集まっている。
「サブスクリプションビジネス」は2012年頃からメジャーになったビジネスモデルだが、今回は、今、アメリカ人がはまっていると言われる、サブスクリプションボックス(SB)について、特にサブスクリプションボックスの中でもファッション系「SB」について見ていこう。
サブスクリプションボックス(SB)とは、利用者の好みやニーズ、嗜好に合わせた商品が定期的に届けられ、定額料金を徴収するビジネスモデルである。
アメリカではアパレル、ファッション商品から化粧品、食材、書籍、おもちゃ、手芸キットに至るまで、6,000以上ものSBサービスが存在する。
近年のSBビジネスモデルの中で有名なものとして、後述するスティッチ・フィックスなどがある。 また、eコマースの分析調査などを行うヒットワイズによると、SBサービスのアメリカでの利用者数は、570万人にのぼるとしている。
サブスクリプションボックスには2つのタイプがある。1つは、同じ商品を定期的に発送するサービス。もう1つは、利用者の身体的な特徴や嗜好(しこう)に合わせて毎回違う商品を選び、それらを詰め合わせて発送するものだ。
サブスクリプションボックスで多くの消費者に人気があり、サブスクリプションボックスとして成長を遂げているのは後者のタイプだ。 後者のサブスクリプションボックスのポイントは、目利きの商品構成、スタイリストが毎回、商品を選んで発送し、返品無料という点である。
企業側で毎回異なる商品が毎回チョイスされるため、消費者はどんな商品が届くか期待にワクワクさせるサービスが魅力となっているようだ。
以下にアメリカのアパレル企業でサブスクリプションボックスでの取り組みで有名なものを見ていこう。
スティッチ・フィックスのサービスは独自のアルゴリズムを活用し、利用者の体形、好みに合わせて洋服や靴をスタイリングするものだ。
ユーザーは登録する際に体形や好みのファッション情報などを入力すると、独自アルゴリズムがユーザーに合うファッションアイテムを絞り込み、さらにその内容にあわせて、プロのスタイリストが商品を選定する。
SB利用者は届いた商品の中から、気に入ったものは残し、気に入らなかったものは返送する。利用者は気に入った商品代金とスタイリング料20ドルを支払うといったシステムだ。
スティッチ・フィックスは、忙しくてなかなか買い物に行けない人とショッピングがあまり好きではない人をターゲットにしている。
同社の利用者(アクティブユーザー)は2015年の86万7,000人から、現在では219万人に増え、収益も2017年度は9億7,710 万ドルに達しており、サブスクリプションボックスの成功事例ともいえるだろう。
スティッチ・フィックスはこのSBビジネスモデルを確立し、2017年11月にナスダックに上場した。
スポーツ関連ファッション商品をメインとしているArmour Boxのサービスのサブスクリプションボックスは、利用者のプロフィール、興味のあるスポーツ、好みのスタイルなどをAIを活用した商品選出をベースに、公認スタイリストが選んだ商品をアイテム4点から6点が定期的に送られてくるというもの。
基本利用料は無料となっており、選んだ商品分の料金のみが請求される。また、全商品を購入する場合は20%の特別割引が適用される。 また、一度購入を決めた商品でも、一定期間内であればサイズ違いや色違いのものと交換できるようになっている。
ギャップは2017年10月、2つの子供向け衣料品のサブスクリプションボックスサービスを開始した。
1つは、ベビーギャップブランドの「ベビーギャップ・アウトフィットボックス」、もう 1つは、低価格帯ブランドのオールドネイビーの「スーパーボックス」である。
「アウトフィットボックス」は、コーディネートされたベビー服が3カ月ごとに届けられるというプログラムだ。 SBには毎回、100ドル(約1万1000円)相当の商品が入っており、価格は70ドル。 サイズは子供の成長に合わせて毎回変更される。 商品も気に入った商品以外は返送でき、21日以内であれば支払った料金でも返金される。 特徴的なのは、子供の成長に合わせて衣類のサイズも自動的に更新されるところだ。
現在は0~2歳児向けとしているが、今後3~4歳児向けのサービスも開始する予定だ。 5~12歳児向けサービスは「スーパーボックス」で扱っている。
アパレル系小売りがSBサービスを開始する目的は、「顧客との継続的な繋がりを築ける」や、「継続的な収益を見込める点」、さらに、「顧客の嗜好や消費行動に関する情報管理ができる点」などがあげられる。
そしてこのSBサービスは、パーソナライゼーション、つまり顧客一人一人に対してカスタマイズ化されたサービスであるため、顧客との関係性をより強固にすることができるという意見もある。
コンサルティング会社のアル・サンバー氏によると、SBサービスは「洋服のサイズや好きなファッションスタイルなど、”パーソナライゼーション”に必要な情報を顧客から提供してもらうことで、企業から一方的に情報を発信するこれまでの関係から、顧客が企業側に意見をフィードバックする、相互にコミュニケーションを取る関係が構築でき、顧客との結び付きがより強くなる」と見解を示している。
アパレル業界の生存競争に生き残るには、この”パーソナライゼーション”、顧客と個人的レベルで関係を築くことが最も重要と言われる中、このSBサービスは今後はますます増え続けてゆくだろう。
国内アパレルメーカーでは、「ZOZOTOWN」、「airCloset」、「メチャカリ」などがSBサービスを行っている。
共通する点としては、「人工知能×人間のスタイリスト」による掛け合わせで、商品を提案するモデルあるところだ。 SBサービスの重要なところは、いかに利用者の嗜好にあったアイテムをセレクトできるかにある。
それには人工知能を活用し、さらに最終的には専門のスタイリストがアイテムをコーディネートすることで、毎回、ユーザーニーズに合致したアイテムをピックアップすることができるのだろう。
サブスクリプションボックスの魅力は、利用者側から言うと、何が届くかわからないワクワク感。箱が届くとプレゼントをもらったような嬉しい感覚になる、送られてきた商品のサプライズ感にあると言える。
利用者が箱を開けた瞬間の興奮感といったものはオンラインショップでの買い物では体験できない感覚である。
「フォーブス」誌によると、「これからは、消費者が求めるモノを販売するだけでは、消費者は満足しないだろう。小売は、消費者が予期しない状況、サプライズプレゼントのような体験を提供する必要がある。」とし、サブスクリプションボックスはそのサプライズを提供するための理想的な手法だと分析している。