中国Eコマースを支えるアリババテクノロジーと越境EC事情


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中国商務部(中華人民共和国商務部)は11月3日、「2020年第1~3四半期インターネット小売市場発展報告」を発表した。
発表によれば、中国の2020年第1~3四半期のインターネット小売額は前年同期比9.7%増の8兆65億元(約120兆975億円、1元=約15円)で、実物商品のインターネット小売額は15.3%増の6兆6,000億元となっている。
インターネット小売額は、社会消費品小売総額を24.3%を占めており、中国EC市場は前年同期比4.8ポイントの上昇である。
今年はまだ、第4四半期が残っているが、第1~3四半期は新型コロナ禍によるライブコマースの拡大や生鮮EC、無人小売などが内需拡大させた。
今回は、その拡大の象徴とも言える、2020年の独身の日(W11)の特徴やインバウンド需要がなくなった今、増加している中国越境EC事情などについて見ていこう。

中国最大のECセール11月11日「独身の日(W11/2020)」の特徴

2020年11月11日、中国最大のECイベント「独身の日」では、アリババが運営する「天猫」の注文額は前年同期比26%増の4,982億元(約7兆4,730億円)となった。
また、EC大手の京東(JD)の注文額は32%増の2,715億元(約4兆3,240億円、1元=約15円)となり、2社とも過去最高記録を更新した。
アリババ「天猫」の「独身の日」の売り上げは、日本のEC最大手、楽天の一年間の取引額の2倍にも相当する。
この4,982億元(約7兆4,730億円)もの注文は3週間かけて発生しており、注文を処理するためのアリババクラウドコンピュータには、大きな負荷がかかったわけだが、アリババクラウドのECテクノロジーは進歩しており、これら桁違いな注文数に対応した。
ここでは、アリババクラウドの処理能力の進歩など、セールを支えたアリババクラウドテクノロジーについてまとめた。

独身の日2020

セール開始から26秒で注文数毎秒58.3万件に対応

11月11日独身の日「W11」はセール開始から、26秒後には注文数が毎秒58.3万件とピークに達した。これは2009年の「独身の日」初開催時と比べると1400倍の大きさである。

アリババは2019年の独身の独身の日セールで、全ての基幹システムをアリババクラウドに移行し、処理能力を大幅に高めた。2019年の処理量は1秒間に25億件であった。
今年はさらに性能を高め、アリババクラウドはピーク時では、1秒間に約40億件のデータストリームを処理するまでになった。
この情報処理量は「イギリスの国立図書館が運営する2013以降のWebアーカイブデータ量の15倍に匹敵する」そうだ。

今年の「W11」では、アリババのライブコマース・サービス「タオバオライブ(淘宝直播)」で数万本のライブストリームが配信され、消費者向けのマーケティング・販売活動においてライブ配信が中心的な役割を果たした。
このライブコマースにおいて、遅延を1秒以下(業界平均より約75%低い遅延)に抑えるRTS(Real-time Streaming)技術などのアリババクラウドの狭帯域・高精細映像ソリューションが活用された。
中国消費者にダイナミックかつ円滑に交流できるライブストリーム体験を提供できたことは、アリババの売上の拡大、上昇に繋がったとしている。

アリババクラウドによる3Dモデル作成を支援

また、アリババクラウドは3D空間上で家具や家電の配置イメージを確認できる3Dモデリング・デザイン・プラットフォームを「W11」で提供した。
このテクノロジーは3Dモデル作成にかかる時間を3時間から10秒に短縮したもので、出店者はこの技術を活用して、10万以上のショールームにバーチャル3D製品を設置することができた。
今回の独身の日のセール期間中に6,000万人の消費者が3Dモデリングを活用したという。

AI翻訳活用のアバター販売員が消費者をサポート

上記のような巨大なECセール「W11」では、注文だけではなく、中国消費者のお問い合わせも殺到する。
「W11」では自然言語処理(NLP)、画像認識、TTS(Text-to-Speech、テキストの読み上げ機能)、クラウド・レンダリングなどを備えたバーチャルキャスターサービスを開始した。
これは、ライブ配信の実演販売員が休憩している間(通常は深夜から早朝)でも、アバター販売員(バーチャル・キャスター)がライブ配信中に商品の詳細を説明したり、一部の問い合わせに対応したり、視聴者とゲームをしたりする機能である。

世界初となるライブ配信を自動翻訳機能で越境ECを支援

アリババはEコマース・プラットフォームには「ライブ配信+AI自動翻訳」機能がある。
この機能はライブストリーミング環境における音声の聞きづらさを軽減したり、なまりのある音声も認識可能だ。
「ライブ配信+AI自動翻訳」機を活用した「AliExpress(全球速売通)」の出店者は70%以上に昇る。
また、越境EC出店者においても、このAI言語翻訳機能は活用され、「海外ライブ配信とAI自動翻訳」を組み合わせ、ライブコマース配信をリアルタイムで翻訳・字幕化するなど行われた。

「AliExpress(全球速売通)」とは、海外市場向けに構築されたアリババ傘下の越境ECプラットフォームであり、多くのバイヤーに「タオバオ(淘宝)国際版」と呼ばれている。

海外から参加する越境ECも活況

2020年「W11」は、アリババクラウドの技術革新が進んだことから、海外企業や中小企業の越境EC参入障壁が緩和したこと、さらに新型コロナ禍の影響で、海外旅行ができない消費者にとって、国外の商品を販売する「AliExpress(全球速売通)」からの購入が活況だった。

「W11」越境ECでは89の国・地域が参加し、海外ブランドは、3万1,766店(昨年は2万2000以上)が参加し、そのうち新規参入ブランドは2600店、新商品は120万商品と前年比47.3%増となった。
国別の流通総額ランキングでは5年連続で日本がトップで、続いて、アメリカ、韓国、オーストラリア、ドイツ、英国、ニュージーランド、フランス、イタリアの順となった。

アリババの発表よると、中国消費者が購入した輸入ブランドのトップ10(11月11日午前11時、時点)は以下の通りとなっている。
日本の「ヤーマン」が海外ブランドでは売り上げトップとなったほか、4位に花王、5位に資生堂と日本のビューティブランドが入っている。

  1. ヤーマン(日本)
  2. Aptamil(ドイツにある乳幼児向け製品の会社)
  3. Swisse(オーストラリア)
  4. 花王(日本)
  5. 資生堂(日本)
  6. A.H.C(韓国 コスメ)
  7. SmoothSkin(イギリス)イギリスの家庭⽤光脱⽑器
  8. a 2(ニュージーランド)
  9. Bio Island(オーストラリアのサプリメントブランド)
  10. Emporio Armani(イタリア 高級ファッションメーカー

また、日本ブランドで注目なのはユニクロで、レディースファッション部門とメンズファッション部門でトップとなっている。
その他、デジタル機器ではソニーが8位、時計眼鏡ではカシオがトップ、化粧品では8位に資生堂などがとなっている。

中国では5億人が利用する越境EC

中国商務部の発表によると、中国の第1~3四半期の越境EC小売輸入額は前年同期比17%増(金額は未発表)と発表された。
国・地域別では、日本(16.3%)がトップである。次にアメリカ(15.1%)、オーストラリア(8.9%)などが続く。
越境EC売れ筋商品では、化粧品(32.7%)が最も購入されており、次に食品(24.4%)、アパレル(12.9%)の順である。
経済産業省の「令和元年度電子商取引に関する市場調査」によると、2019年の中国・アメリカ3カ国間の中国越境ECの取引額は、3兆6,652億円となっており、内訳は日本が1兆6,558億円、アメリカが2兆94億円である。
さらに、今年、2020年は中国越境ECは「W11」に見られるように拡大しており、経産省の試算によると4.1兆円ま増加するだろうとしている。

 

越境EC国別構成比

越境EC取引商品構成図

まとめ

中国ではコロナ感染者数は3月以降、ほとんど横ばい状態が続いており、コロナ感染をコントロールできているといって良いだろう。
中国経済はコロナが沈静化しつつある中で、小売店や飲食店など客足が戻っていることから、消費は回復しつつある。
そして、回復の起爆剤となっているのが、「W11」の拡大にみるように、中国EC市場の力強い成長である。

参考:

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